絵画は「見過ごされてきた自然観察の記録」かも
チームは、ヤン・ブリューゲルが実際に夜の高空でコウモリの狩りを見たと断定しているわけではありません。
歴史的な絵画、とくに寓意画には、象徴的な表現や空想的な要素が含まれることが多いからです。
そのため、「鳥をくわえたコウモリ」が描かれているからといって、それだけで400年前にこの行動が科学的に観察されていたとは言えません。
しかしチームは、この描写には注目すべき点があると考えています。
まず、鳥をくわえているのが、ほかのコウモリではなく、ヤマコウモリ属らしい個体であることです。
また、くわえられている鳥も、スズメ目の小鳥のように見える点が重要です。
これは、現在知られているオオヤマコウモリの捕食行動とよく対応しています。
ヤン自身が珍しい昼間の捕食場面を目撃した可能性もあります。
あるいは、当時の人々がコウモリの糞に混じった鳥の羽毛に気づき、「このコウモリは鳥を食べる」と経験的に知っていた可能性もあります。
また、誰かから聞いた自然観察の話を、画家が作品の細部に取り入れたのかもしれません。
いずれにしても、この絵画は、芸術作品が単なる美術史の資料にとどまらないことを示しています。
昔の画家たちは、動物の姿や行動を驚くほど細かく観察し、それを作品の中に描き込んでいました。
その中には、現代の科学者が後から重要性に気づく情報が眠っている可能性があります。
現在、世界中の美術館や博物館では、所蔵作品のデジタル化が進んでいます。
高解像度画像として作品を見られるようになれば、専門家や画像解析ツールによって、これまで見過ごされてきた動物の描写を調べやすくなります。
今回の研究は、古い絵画が過去の生物多様性や動物行動を知る手がかりになりうることを示す好例です。
400年前のキャンバスに描かれた小さなコウモリは、科学がようやく追いついた自然の一場面を、静かに記録していたのかもしれません。
絵画は、ときに美しさだけでなく、失われかけた自然観察の記憶も残しているのです。




























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