若いころは遊ぶべき?
「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」
学生のころ、だれしも一度はこのセリフを耳にしたことがあるのではないでしょうか。
これは親や先生といった子どもの世話する立場にある人が、学生の将来を思って口にする言葉です。
その一方、社会で働く世のおじさんたちはこう口にします。「若いころは遊んでおけ」と。
これは、「人付き合いやマナーなどは座って勉強しているだけじゃ身につかないから、遊びを通じて学びなさい」というポジティブなメッセージとして読み取れます。
さて、母や先生の言う勉強が「将来の役に立つ」ことは納得いきますが、おじさんの言う遊びも「将来の役に立つ」のでしょうか?
ヒト以外の動物に目を向けてみると、社会生活を営むサルなどの哺乳類は「若いころは遊んでおけ」という教訓に従っているようです。群れ生活を営むイルカも、若いころによく遊ぶ哺乳類の一員です。
ただし、イルカの遊びといっても、水族館で華やかなショーをするイルカからイメージするような、穏やかな遊びではありません。
ミナミハンドウイルカという体長2.5mほどのイルカは若い時期(約4~14歳)に、複数頭があつまり「交尾ごっこ遊び」をします。
これはどういう遊びかというと、「1頭のメス役と、複数頭のオス役がおり、このオス役がメス役にマウントしたり、ペニスをぶつけたりする」遊びです。
なお、この遊びがオスだけで行われる場合は、いずれかのオスがメス役を担うことになります。
イルカたちは一風変わった遊びをするようですが、そもそも「なぜ、若いころに遊ぶのでしょうか?」。
とゆうのも、遊んでなどおらずに、たくさん餌を食べて、早く大きくなって、早く繁殖に参加したほうが、「たくさんの次世代を残す」という生物としての目的を達成するには都合がよさそうです。
加えて、「なぜ、遊びが交尾ごっこなのでしょうか?」。
一人遊びでもなく、モノを使った遊びでもなく、他者とかかわりあう社会的な遊びであり、しかもそれが交尾を真似た遊びであることに、なにか特別な意味があるのでしょうか?
この疑問に、西オーストラリアのシャーク湾を拠点とする国際チーム「Shark Bay Dolphin Research」が、ホルム氏(Holmes, KG)を筆頭として取り組みました。
今回の研究にて、チームはオスにおける遊びの重要さに着目しました。
とゆうのも、このミナミハンドウイルカのオスの社会は、私たちヒトの社会に匹敵するほど複雑であるとされているために、他者とかかわる重要性は、メスに比べて、オスのほうが高いと想定できるためです。
研究チームは、「若いオスたちは遊びを通じて、交尾のテクニックを向上させたり、将来の一緒にメスを口説く仲間との友情を深めたりする」という仮説を立てました。
加えて、「若いころによく遊んでいたオスのほうが、オトナになってからメスとの交尾にたくさん成功する」という仮説も立てました。
チームはこれらの仮説を、32年にわたるフィールド調査データと、遺伝子解析の技術を組みあわせ、仮説の検証に取り組みました。