オスイルカは3段階の複雑な同盟を結んでいた!
研究チームは、2001年から2006年にかけて、オーストラリア西岸のシャーク湾で、ミナミハンドウイルカ(Tursiops aduncus)の大規模な追跡調査を行いました。
個体ごとの行動や鳴き声をつぶさに記録し、どのような関係を仲間と築いているか観察します。
その中でチームは、121頭のオスの成熟個体に焦点を当て、10年以上にわたり、その社会的ネットワークを追跡しました。
データ分析の結果、オスイルカは、3段階の同盟を結ぶことが判明しています。
まず、一次同盟は、2~3頭の特に結びつきの強いグループです。
これは親友みたいなもので、そのうちの1頭がメスにアプローチする際は、他の仲間が一緒に行動してサポートします。
そして、この小さなグループはほぼすべて、他の小集団と結びついて、4〜14頭からなる二次同盟を結成していました。
二次同盟では、集団内の協力関係がさらに強化され、他のグループからメスを連れ去ったり、あるいはメスを奪われるのを防ぐシステムとして機能します。
たとえば、ある1頭のメスを一次同盟で追いかけている際、他のライバルグループが横取りしにきたら、すかさず二次同盟が助けに来てくれるのです。
さらに驚くべきことに、別々の二次同盟が協力関係を築いて、より大きな三次同盟を結成することも確認されました。
ここでは、ライバルグループ同士の争いをなくし、代わりに協力し合うことで、メスへの求愛時間がより安定して確保され、繁殖の成功率に繋がっています。
三次同盟に参加している個々のイルカは、最終的に、22〜50頭の仲間と社会的な繋がりを持っていました。
研究者は「こうしたオス同士の同盟関係は数十年単位で続くと見られ、そのネットワークが親密であればあるほど、メスとの繁殖成功率も高まっていた」と述べています。
このように、多層的かつ大規模な社会的ネットワークが観察されたのは、ヒト以外で初めてです。
これほど複雑な関係の中に身を置いていると、脳への”認知的な負荷”も自然と大きくなるでしょう。
よって今回の研究結果は、哺乳類の脳が大きく進化したのは、複雑な社会的環境への適応のためであるという「社会脳仮説(Social brain hypothesis)」を裏付けるものだ、と研究チームは指摘します。
イルカとヒトは、動物界の中でも特に大きな脳を持つことで有名です。
両者は、まったく異なる環境にいながらも、互いに複雑な社会システムを構築したことで、高度な脳を獲得したのかもしれません。