その5「もっとお金や成功を得れば、私は幸せになれる」
最後の思い込みは、「もっとお金があれば、もっとよい仕事があれば、もっと大きな家があれば幸せになれる」という考えです。
もちろん、お金や住まい、仕事が生活にとって重要でないという意味ではありません。
貧困や不安定な暮らしは、人の心身を大きく苦しめます。
しかし、一定の安定を超えた後も、さらに多くの物を手に入れれば自動的に幸せになれると考えるのは危険です。
古代ギリシャのエピクロス派は「心の平穏は過剰な所有ではなく、いまあるものと共に生きる力から生まれる」と考えました。
エピクロスは、少しのもので満足できない人は、何を得ても満足できないという趣旨の考えを残しています。
また、仏教を開いたゴータマ・シッダールタも、物や欲望への執着がさらなる苦しみを生むと説きました。
ここで大切なのは、「欲を持つな」という単純な道徳論ではありません。
むしろ問題は、幸福を常に未来の条件に預けてしまうことです。
「昇進したら幸せになれる」「もっと稼げば安心できる」「もっと認められれば満たされる」と考え続けると、今この瞬間の人生は、いつまでも未完成の仮住まいになってしまいます。
哲学が教えているのは、幸せを外側の獲得物だけに依存させないことです。
思い込みを手放すと、人生は少し軽くなる
私たちは、世界を完全には支配できません。
他者によって完全になるわけでもありません。
変わらない自分に固定されているわけでもありません。
世界から特別な保証を与えられているわけでもありません。
そして、物を増やせば必ず満たされるわけでもありません。
だからこそ哲学は、外側ではなく内側を、ないものではなく今あるものを見つめるよう促します。
自分がどんな物語に縛られているのかを知り、それが本当に自分を助けているのかを問い直すことです。
現代社会は、もっと管理し、もっと愛され、もっと成功し、もっと所有することを私たちに求めます。
しかし哲学は、そこで一度立ち止まるように語りかけます。
人生を苦しくしているのは、現実そのものではなく、現実に貼りつけている思い込みかもしれません。
その思い込みを少しずつ手放すことができれば、私たちは今よりも自由に、そして少し軽やかに生きられるようになるのではないでしょうか。

























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