「美的センス」を共有していた可能性
では、この価値観の共通性は何を意味するのでしょうか。
同じ場所に住み、同じ資源に囲まれていれば、似た行動が生まれることはあります。
しかし今回の場合、チームは、2種の人類がそれぞれ完全に独立して、同じ文化を生み出した可能性は低いと考えています。
なぜなら、共通していたのは石器や食料だけではなかったからです。
特定の石材を用いた石器づくり、同じような狩猟採集、さらに数ある自然物の中から特定の貝殻を選んで持ち帰る行動までが、長期間にわたって連続していたのです。
このような高度な共通性は、両者の間に何らかの接触や交流があった可能性を示します。
ただし、この研究は、ウチャーズリII洞窟で、現生人類とネアンデルタール人が同時に暮らしていたことを直接証明したものではありません。
そのため、「この洞窟でネアンデルタール人と現生人類が一緒に暮らしていた」「ここで交雑していた」と断定することはできません。
それでも、この研究が重要なのは、両者の関係を考えるための新しい視点を与えてくれるからです。
ネアンデルタール人と現生人類は、まったく別々の文化をもつ存在だったわけではないかもしれません。
少なくとも北レバントのこの地域では、両者は似た道具を作り、似た食料戦略をとり、同じ貝殻に価値を見いだしていた可能性があります。
これは、両者の間に「通じ合う部分」があったことを示しているように見えます。

想像してみると、不思議な光景です。
見た目も身体つきも異なる別の人類が、自分たちと同じ貝殻を拾い、同じように洞窟へ持ち帰っていたのです。
それは「食べられるから」でも「道具として使えるから」でもありません。
ただ、なぜか心を惹かれるものだったのです。
もしそうなら、ネアンデルタール人と現生人類の交流は、道具や食料の共有だけではなかったのでしょう。
そこには、「きれいだ」「面白い」「持っていたい」と感じるような、より深い感性の共有があった可能性があります。
現代人にとっても、役に立たない小石や貝殻を拾って持ち帰りたくなることがあります。
それは合理性だけでは説明できない行動です。
しかし、そうした行動こそが、人間らしさの根っこにあるのかもしれません。
今回の小さな貝殻は、数万年前の洞窟に生きた異なる人類たちが、ただ生き延びるだけでなく、美しさや好奇心に心を動かされていた可能性を示しています。
























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