奇妙なキノコの学名は「恥知らずな男根」
ヘンリエッタが標的にしていたスッポンタケには「ファルス・インプディクス(Phallus impudicus)」という学名があります。
これはラテン語で「恥知らずな男根」を意味します。
1753年にこの学名を付けたのは、生物の分類体系を築いた博物学者カール・フォン・リンネです。
その名前の通り、スッポンタケは古くから性的なイメージと結びつけられてきました。
しかし、このキノコの奇妙さは外見だけではありません。
スッポンタケは最初、地面に白い卵のような姿で現れます。
この卵状の幼菌の内部には、折り畳まれたキノコの組織が圧縮されています。
水分を吸収すると、それがバネのように一気に伸び、場合によっては1時間以内に成長することもあります。

胞子の広げ方も独特です。
多くのキノコは空気中に胞子を飛ばしますが、スッポンタケは傘の表面を臭い粘液で覆い、その中に胞子を混ぜています。
腐肉に似た臭いに引き寄せられた昆虫が粘液を食べ、別の場所で胞子を含む排泄物を出すことで、分布を広げるのです。
さらにヨーロッパや北米では、スッポンタケをめぐる奇妙な伝承が数多く生まれました。
男根に似た姿から、豊穣や生殖力を高める媚薬と考える地域がある一方、性的な堕落や悪魔、病気の象徴とみなす地域もありました。
卵状の幼菌は「悪魔の卵」や「魔女の卵」と呼ばれることもあり、家の近くに生えると家族に死が訪れるという迷信まで存在しました。
ヘンリエッタも、植物学書などを通じて、スッポンタケにまつわる卑猥で不気味な伝承を知っていた可能性があります。
当時の上流階級には、使用人を病気だけでなく、道徳的な堕落からも守る責任があるという考え方がありました。
避妊手段が限られ、未婚の女性にとって妊娠が生活を大きく揺るがしかねなかった時代です。
そのため、「メイドたちの道徳を守る」というヘンリエッタの冗談には、当時の階級意識や社会観も反映されていたのです。


























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