大量のナトロンで遺体から水分を抜く
1994年5月、2人は本格的なミイラ製作を開始しました。
最初に行ったのは、内臓の摘出です。
古代エジプトでは、脳は重要な臓器とは考えられず、多くの場合は取り除かれて捨てられていました。
一方、心臓は思考や感情、知性が宿る場所だと考えられていたため、体内に残されました。
ブライアーとウェイドもこの考え方に従い、心臓を残したまま、脾臓、肝臓、胆嚢、肺、腸などを摘出しました。
腹部に入れた切り込みは約9センチしかありませんでした。
その小さな穴から、大きな肝臓や肺、全長約6.7メートルの腸を取り出す必要がありました。
特に難しかったのは、体内が見えない状態で肺を心臓から切り離す作業だったといいます。
内臓を取り出した後、2人はヤシ酒と没薬で腹腔内を洗浄し、頭蓋骨の内部には乳香を詰めました。
これらの物質には死後の世界へ向かうための宗教的な意味がありました。
同時に、微生物の増殖を抑えたり、腐敗臭を隠したりする実用的な効果もあったと考えられています。
次に使用されたのが、ナトロンと呼ばれる天然の塩類です。
ナトロンには、遺体から水分を強力に吸い取る働きがあります。
細菌やウジ、甲虫などは、水分がほとんどない環境では活動できません。
そのため、遺体を十分に乾燥させれば、腐敗の進行を大きく抑えられます。
ブライアーは本物の材料を使うことにこだわり、エジプトで自らナトロンを採取しました。
研究室では、ナトロンを詰めた29個の亜麻布袋を、内臓を取り出した胴体の内部に入れました。
さらに約96キログラムのナトロンの上に遺体を横たえ、その上から約264キログラムをかぶせました。
部屋の温度は約40℃に設定され、除湿機も昼夜を問わず稼働させました。
エジプトの暑く乾燥した環境を、室内で再現したのです。
その後の5週間で、遺体の上に積まれたナトロンは体液を吸い込み、茶色く硬い塊になりました。
2人は鉄の棒を使い、固まったナトロンを割って遺体を掘り出しました。





























