強すぎる喜びも心臓に負担をかける
一方、左心室を詳しく調べると、心臓の先端部分である心尖部(しんせんぶ)が異常に膨らんでいました。
心尖部の筋肉はほとんど収縮せず、それ以外の部分が通常以上に強く収縮していました。
その形がタコを捕るための「たこつぼ」に似ていることから、この病気は「たこつぼ型心筋症」と呼ばれています。
女性の左心室駆出率は、以前の58%から35%まで低下していました。
さらに心臓MRI検査でも心尖部の収縮低下が確認されましたが、通常の心筋梗塞で見られる心筋の壊死や線維化を示す所見はありませんでした。
これらの検査結果と発症前の状況から、医師たちは女性を、たこつぼ型心筋症の一種である「ハッピーハート症候群」と診断しました。
たこつぼ型心筋症は、家族との死別や離婚など、強い悲しみやストレスをきっかけに発症することで知られています。
このタイプは一般に「ブロークンハート症候群」と呼ばれています。
しかし、結婚式、誕生日、再会など、強烈な喜びや興奮が引き金となる場合もあり、こちらがハッピーハート症候群です。
過去の研究では、ポジティブな感情をきっかけとする症例は、報告されたたこつぼ型心筋症全体の約4%にとどまるとされています。
正確な仕組みはまだ解明されていませんが、激しい感情によって交感神経が急激に活性化し、アドレナリンなどのカテコールアミンが大量に放出されることが関係していると考えられています。
この急激な身体反応が、心筋や心臓の微小な血管へ一時的な障害を与える可能性があります。
女性は薬物治療を受けた後、日常生活に制限なく復帰しました。
追跡検査では左心室駆出率も56%まで改善し、心臓機能はほぼ完全に回復しました。
ただし、たこつぼ型心筋症は回復しやすい病気だからといって無害ではありません。
重い心不全や不整脈などを引き起こし、命に関わる可能性もあります。
今回の報告は、幸福が一般的に心臓へ悪影響を与えると示したものではありません。
あくまで患者1人を扱った症例報告であり、娘の結婚式で感じた喜びが発症の直接原因だったと実験的に証明されたわけでもありません。
それでも、強烈な感情は悲しみだけでなく喜びであっても、身体にとっては大きな刺激になり得ます。
幸せな出来事の直後であっても、強い胸痛や息苦しさが続く場合には、「喜ばしい日だから大丈夫」と考えず、速やかに医療機関を受診する必要があります。






























