記憶は消えず、一時的に取り出しにくくなっていた
生後29日に箱と電気刺激の関係を学んだマウスは、翌日には同じ箱の中で強いすくみ反応を示しました。
つまり、思春期初期でも、場所と経験を結び付けた記憶を正常に作ることができました。
ところが数週間後、思春期後期に同じ箱へ戻すと、すくみ反応は大きく低下しました。
この低下は、繰り返し箱へ入れなかった条件でも起きました。
また、音と電気刺激を結び付けた記憶は保たれていたため、単なる慣れや恐怖反応全体の低下では説明できませんでした。
さらに研究チームが別の箱で再び電気刺激を与えると、マウスは新しい箱だけでなく、反応しなくなっていた最初の箱でも再びすくむようになりました。
最初の記憶は完全に消えたのではなく、脳内に残ったまま一時的に取り出しにくくなっていたと考えられます。
たとえるなら、データは保存されていても、それを見つけるための道筋が乱れていたような状態です。
その原因の一つとして考えられたのが、RSPで起きたPNNの減少です。
PNNが減った時期には、神経回路の活動を整える細胞で、パルブアルブミンという目印も弱くなっていました。
ただし、これは神経細胞そのものが同じ割合で死んだことを意味しません。
追跡実験では、細胞は残っていても、パルブアルブミンの発現が弱くなったものが確認されました。
そこで研究チームは、PNNを安定させる物質をRSPに投与。
するとPNNとパルブアルブミンの目印の減少が抑えられ、思春期初期に作られた記憶反応の低下も軽減されました。
この結果は、PNNの減少が記憶を取り出しにくくする原因の一つだった可能性を示しています。
また、マウスをさらに長く観察すると、弱まっていた記憶反応は生後120日から150日ごろに自然に戻りました。
しかし、マウスは電気刺激を受けた箱だけでなく、刺激を受けていない別の箱でもすくむようになりました。
つまり記憶は戻ったものの、出来事が起きた場所を区別する精度は下がっていたと考えられます。
研究者らは、思春期後期にPNNが一時的に減ることで、古い記憶の安定性が下がる一方、新しい経験に合わせて回路を作り替えやすくなる可能性を考えています。
とはいえ、これはマウスの恐怖記憶を調べた研究であり、人間の思春期にも同じ現象が起きるかは不明です。
統合失調症や大うつ病が現れやすい時期との重なりも指摘されていますが、今回の変化が病気を引き起こすと証明されたわけではなく、更なる研究が必要です。
思春期とは、脳がただ成長するだけでなく、過去の記憶を守る力と、新しい経験を受け入れる柔軟さのバランスを組み直す時期なのかもしれません。





























