トンボの空中戦では「相手の背後」を取ることが重要
相手の見える方向と旋回を照らし合わせると、トンボは相手が右に見えれば右へ、左に見えれば左へ曲がっていました。
相手が正面に近づくほど旋回反応は弱くなったため、基本的には相手を前方へ戻すように飛んでいたと考えられます。
さらに、その狙いの中心は真正面ではなく、水平線より約12度上でした。
つまり追う側は、相手より少し低い位置に入り、ライバルを正面上方に保とうとしていたのです。
相手の位置と旋回反応の時間差を解析すると、視覚情報が飛行へ反映されるまでの遅れは約24ミリ秒と推定されました。
また人工標的を追わせた実験では、標的が40センチ以内に入ると、トンボは標的の速度に近づくよう調整していました。
標的が25センチ以内に来ると減速する一方、50センチより遠いときには加速する傾向が見られました。
この速度調整は、遠くでは距離を縮め、近くでは衝突や追い越しを防ぎながら、相手の後方を保つのに役立つと考えられます。
それでも追う側が相手より速すぎると、相手の進路を通り越してしまいます。
すると相手を再び正面へ戻そうとして急旋回するため、軌道に円やループが生じます。
シミュレーションでも、反応の遅れを入れなくても、追跡側の速度が高ければ行き過ぎやループが再現されました。
さらに、先頭を飛ぶ不利なトンボが横方向へ曲がりながら下降すると、後ろの相手の進路を横切り、そのまま後方へ回り込む場合がありました。
これによって、追う側と追われる側が入れ替わります。
一方、両者が同じ程度に強く旋回した場合には、互いを追いながら下降する螺旋飛行に似た動きがシミュレーションでも現れました。
加えて、空中戦中の飛行速度の中央値は秒速2.1メートルで、今回の記録上の最高速度である秒速8.5メートルを大幅に下回っていました。
速度が高くなるほど旋回半径が広がるため、低めの速度域が小さく正確に曲がるうえで役立っていた可能性があります。
それでも急旋回時の向心加速度は最大約6Gに達しました。
さらに、飛行時間の36.8%では、トンボは羽ばたかずに短く滑空していました。
滑空にはエネルギー消費や熱負荷を抑える働きがあるほか、相手を追跡する視界を安定させている可能性もあります。
このように、今回の研究により、トンボの空中戦にはいくつかの単純なルールがあると分かりました。
しかし、相手の後方を取ることが具体的にどのような利益をもたらすのか、勝敗がどのよに決まるのかは未解明のままです。
今後は個体を継続的に追跡するとともに、頭部や翅の動きをさらに高解像度で撮影し、視線と飛行制御がどのように連動しているかを調べる必要があります。
さらに、同じ仕組みがチョウやハエなどにも当てはまるかを検証することで、素早く動く標的を追跡する小型飛行ロボットの開発にもつながるかもしれません。





























