ドーパミンに作用する薬でも、似た線で分かれた

実はこの実験には、もう一つの仕掛けがありました。
参加者の半数には本物の薬——脳内で「やる気」や「報われた感覚」に関わるドーパミンという物質の働きに作用する薬剤(スルピリド400ミリグラム)が投与されていたのです。
こちらも全体平均では気分への効果は見当たりませんでした。
しかし喜びや意欲を感じにくい傾向(快感消失)が強い人に絞ると、この薬を飲んだ群でポジティブ感情が時間とともに上昇していました。
逆に、この傾向が弱い人では同じ薬を飲んでも気分が下がっています。
なぜ同じ薬が、正反対に働くのでしょうか。
研究チームはこれを「ならす作用」と呼んでいます。
ドーパミンの働きが低めの人には不足を補う方向に効き、もともと十分に足りている人には、かえって信号を弱めてしまう。
栄養の足りない人にサプリメントが効く一方、十分に足りている人が飲んでも意味がなく、場合によっては摂りすぎになるのと似た構図です。
ドーパミンを操作すると元の状態次第で反応が逆向きになる現象は、これまでの複数の研究でも報告されており、今回の結果はそれと一致するものでした。
ここで浮かび上がるのは、薬の効果と期待の効果がよく似た形で分かれたという事実です。
気分が持ち上がったのは、薬なら快感消失の強い人、期待なら内向的な人。
そして薬も期待も、それぞれ反対側にいる人にはむしろマイナスに働きました。
そもそも「喜びを感じにくい」と「内向的」は、別の顔をした親戚のような関係にあります。
今回の参加者でも両者ははっきりと結びついており、研究チームが16種類の性格尺度をまとめて分析したところ、その背後には「ポジティブな感情の湧きやすさ」という共通の性質が一つだけ浮かび上がりました。
この共通の物差しで測り直しても、やはり同じ結果が現れています。
別々の入り口から入ったはずが、たどり着いた部屋は同じだったのです。
研究チームは、この二つのパターンの重なりを、期待の効果にドーパミンの仕組みが関わる証拠のひとつとみています。
ただし薬と期待を組み合わせたとき、互いの効果を打ち消したり強め合ったりする関係は見つかりませんでした。
重なって見えるのに、噛み合わない——謎はまだ残されています。
こうした構図が浮き彫りになった背景には、実験デザインの力があります。
健康な成人に対して「期待の操作」と「ドーパミンに作用する薬の投与」を同時に行い、両方の反応が性格でどう変わるかを一挙に検証した大規模実験は、この分野で最初期のものの一つです。

































