痛みでは楽観的な人に効くプラセボが、気分では逆に働いた

そしてこの結果は、プラセボ研究が長年積み上げてきた常識と、正面からぶつかることになります。
プラセボ効果にまつわるこれまでの研究は、主に「痛み」の分野で積み重ねられてきました。
そこでは楽観的で外向的な人ほどプラセボが効きやすいと報告する研究が目立ちます。
今回の結果は、その構図を「気分」という舞台の上で逆転させたことになります。
研究チームは、この逆転の理由として「気分を上げる期待が効くには、もともとポジティブな感情が湧きにくいことが前提になるのかもしれない」と考えています。
ふだんポジティブ感情が乏しい人にとって、「気分が上がる」という予告はそれ自体が大きな報酬になるからです。
痛みを消す期待は誰にとってもありがたいものですが、気分を上げる期待が響くには、上がってほしいと願う理由が要る、というわけです。
なお「もともと気分が高い人は上がる余地がなかっただけでは」という見方もありますが、外向的な人の気分が維持ではなく低下方向に振れたことから、研究チームはそれだけでは説明がつかないとみています。
ただし今回の対象は、うつ病の臨床診断を受けていない健康な人です。
研究チームも、臨床の患者を含む集団での検証が次の課題だとしています。
それでも、本物の薬と「効く薬だ」という期待とが、よく似た性格の物差しに沿って効き方を分けた事実は、うつ病治療の個別化に向けた重要な手がかりです。
「どの薬を使うか」だけでなく「どんな性格の人に、どんな期待を持たせて渡すか」までが治療効果を左右しうる——プラセボ効果は、もはやただの「雑音」ではないのかもしれません。
同じカプセル、同じ言葉。それでも受け取る人によって、届く中身は変わります。
「効くと信じる力」が誰にでも平等でないのなら、その凸凹を地図にして治療を仕立てることこそ、これからの医療の仕事なのかもしれません。

































