「翼のような頭」は水中で翼のように働いていた
では、なぜこれほど奇妙な頭部を進化させたのでしょうか。
研究チームは、化石をもとにバタスピス・クルクスの3Dモデルを作り、水の中を泳いだときに、頭の形がどのように水流へ影響するのかをコンピューター上で再現しました。
そして、頭の形が異なる5種類のガレアスピス類と、泳ぎやすさを比較しました。
するとバタスピス・クルクスは、体をわずかに上向きに傾けて泳いだとき、特に効率よく水中を進める形をしていたことがわかりました。
とくに体を10度ほど傾けた場合、前進を邪魔する水の抵抗をあまり増やさずに、体を持ち上げる力を強く生み出していました。
その効率は、比較したガレアスピス類の中で最も高いものでした。
つまり、バタスピス・クルクスの“翼のような頭”は、水の抵抗を抑えながら体を支え、効率よく泳ぐのに役立っていた可能性があるのです。

シミュレーションでは、翼状に広がった突起の湾曲した上面を流れる水が速くなり、比較的平らな下面との間に圧力差が生じていました。
その結果、飛行機の翼と同じような基本原理で上向きの力が発生したと考えられています。
つまりバタスピス・クルクスは、現代の魚のような柔軟な胸ビレを持たなくても、頭そのものを“翼”として使うことで、水中を効率よく巡航できた可能性があるのです。
研究者らは、この魚を非常に効率的な「滑走型の巡航者」だったとみています。
ここでいう滑走とは空中を飛んだという意味ではなく、水中で揚力を利用しながら抵抗を抑えて進んだという意味です。
一方で、横に大きく広がった頭は直進安定性には有利でも、急旋回には向かなかった可能性があります。
バタスピス・クルクスの発見は、初期の無顎魚が単純に海底近くで暮らす生き物ばかりではなかったことを示しています。
柔軟な一対のヒレを持たなかったガレアスピス類も、頭部の形を大胆に変化させることで、水中を効率よく移動する方法を獲得していた可能性があるのです。
約4億年前の海では、私たちが想像する以上に多様な“泳ぎ方の実験”がすでに始まっていたようです。

































