90℃で気化し、冷えると固体化する――世界初の「昇華するプラスチック」

転機は、実験の途中で偶然訪れます。
研究者たちが、試験管の底にできていたプラスチックの固まりを80℃ほどに温めてみたところ、固まりは跡形もなく消え失せ、冷たい試験管の壁に固体となって再び現れていたのです。
水では、氷を温めると液体の水を経て蒸気となり、蒸気を冷やすと水、さらに冷やすと氷に戻ります。
ところがこの硫黄のリング分子を持つプラスチックは、温めれば固体から一足飛びに気体となり、冷ませば気体から固体へ。液体状態をまったく経ない、ダイレクトな変化をしていたのです。
固体が液体を経ずに気体となり、冷えた場所で再び固体に戻る。
ドライアイスさながらの「昇華」が、プラスチックの身に起きていました。
なぜこんな芸当が可能なのでしょうか。
鍵は、この素材が「つながる」と「ほどける」のあいだで常に釣り合っている点にあります。
硫黄同士の結合は切れやすく、つながり直しやすいため、部品は天秤の上で「つながる」と「ほどける」を行き来し続けている状態にあります。
ここで熱を加えると、ほどけた部品はそのまま分子レベルで解き放たれ、気体となっていきます。
そして立ちのぼった蒸気が冷たい場所に触れると、部品たちが再び「つながる側」へと天秤を傾け、元と同じ防水性のプラスチックへ組み上がっていくのです。
部品たちは誰の手も借りないまま、加熱で分解し、冷却で再生する往復を軽々とこなしていたのです。
この「気化」と「自動再生」をセットで示したプラスチックは、これが世界で初めての例となります。
しかも、その効率は見事なものでした。
試験管の中で90℃で2時間温めるだけで、およそ9割が気体になったあと冷たい壁面でプラスチックとして復活し、そのまま回収できたのです。
特別な装置はいらず、冷却は室内の空気まかせ。
さらに回収した素材は、もう一度加熱すれば同じ往復を繰り返せました。
分解と再生をぐるぐる回せる、文字どおりの循環型素材です。
研究を率いたピーター・ロス博士は「ほとんどのプラスチックは安定であるように設計されているため、リサイクルや除去が困難です。私たちは、それとはまったく異なる挙動を示す材料、つまり比較的低温で気化し、その後自然に元のポリマーに再構築される材料を作り出せることを示しました」と述べています。



































