「着せて、脱がせて、きれいにする」——実証された3つの使い道

では、この不思議な性質は何の役に立つのでしょうか。
研究チームは3つの使い道を実際にやってみせています。
1つ目は「着せる」。
蒸気を物のそばで冷やせば、その表面に防水コーティングを直接まとわせることができます。
実験では丸めたろ紙に蒸気をあて、水を弾くコートを着せることに成功しました。
コートをまとったろ紙の上では、水滴が染み込むことなく丸いまま乗っています。
液体の塗料は入り組んだ形の物には塗りにくいものですが、蒸気なら隅々まで行き渡ります。
電子部品のような複雑な形状の相手にこそ向いた、新しいコーティング法になるかもしれません。
2つ目は「脱がせる」。
着せたコーティングが不要になったら、一晩加熱するだけです。
コートは気化して消え、加熱で少し変色したものの、ろ紙は元どおり水を吸う紙に戻りました。
溶剤も薬品も使わず、火にかけておくだけで後片付けが済んでしまうのです。
そして3つ目が「きれいにする」。
リサイクルの現場では、回収したプラスチックを砕いて洗浄しますが、これで落ちるのは表面の汚れだけです。
素材そのものに練り込まれた着色料などの添加剤は、洗っても取り除けません。
そこでチームは、染料を混ぜてわざと「汚した」プラスチックを用意し、90℃に加熱してみました。
すると気体になれるプラスチック部分だけが染料を置き去りにして抜け出し、色の抜けた無色のきれいな固体として回収されたのです。
本来ならコストのかさむ化学処理を重ねてようやく実現する添加剤との分離が、「温めるだけ」の一工程で完了したことになります。
もっとも、ロス博士は「これは従来のプラスチックに取って代わるものではなく、世界的なプラスチック廃棄物問題の解決策でもありません」と冷静に釘を刺しています。
今回の研究で示されたのは、加熱すると部品にほどけて気体となり、冷えると自然に元のプラスチックへ組み上がるという基本原理であり、この素材そのものが明日にでもレジ袋やボトルに置き換わるわけではありません。
それでも、同じ仕組みを持つ素材づくりが広がれば、塗ることも、剥がすことも、リサイクルも、今よりずっと簡単になるかもしれません。
筆頭著者のトゥーシフ・カズミ氏も「この化学反応を自在に操る方法を習得できれば、最終的には、現在使われている多くのプラスチックよりも塗布、除去、リサイクルが容易な新素材の開発につながる可能性があります」と展望を語っています。
「消えて、また戻れる」——壊れないことだけを追求してきたプラスチックの歴史に、正反対の選択肢が加わろうとしています。



































