コウモリより約1億年前に「超音波」を使っていた
さらに研究チームを驚かせたのが、「シグマボイルス・ペレグリヌス(Sigmaboilus peregrinus)」という種でした。
モデルによる推定では、この昆虫の鳴き声は約20.4キロヘルツに達していました。
人間が聞き取れる音の上限は一般に約20キロヘルツとされるため、これは超音波の領域です。
重要なのは、その年代です。
現生のキリギリス類では超音波が広く使われており、その進化には超音波を利用して獲物を探すコウモリとの攻防が関係したという考えがあります。
しかしコウモリが化石記録に登場するのは約5500万年前で、今回の昆虫たちはそれより約1億年前に生きていました。
つまり昆虫の超音波コミュニケーションは、コウモリへの対抗策として初めて生まれたものではなかった可能性が高いのです。
チームは、当時すでに高い周波数を聞き取れた初期の哺乳類などの捕食者が、昆虫の鳴き声の進化に圧力をかけていた可能性を指摘しています。
また、森の中で暮らす昆虫たちが異なる周波数を使うことで、他種の鳴き声に自分たちの信号がかき消されるのを避けていた可能性も考えられます。
ただし、今回「復活」した音は1億6500万年前の鳴き声を完全に再現したものではありません。
化石から基本的な音や周波数、鳴き声の基本単位などは推定できますが、神経や行動によって決まる本来の複雑なリズムや歌のパターンまでは化石に残らないためです。
それでも、石になった小さな翼から、恐竜時代の森で響いていた「音」を再び聞ける形にしたことは非常に興味深い成果です。
ジュラ紀の森は、私たちが想像している以上に、多様な虫の声が飛び交うにぎやかな世界だったのかもしれません。































