なぜ精子はチーム戦をするようになったのか?

では、束ねると何が得なのでしょうか。
まっさきに思いつくのは、束になれば速く泳げる、という答えです。
精子が向きをそろえて並ぶと、水の抵抗は匹数のぶんだけ素直に増えるわけではありません。
ところが尾のほうは数匹ぶんが同時に打つので、抵抗の増え方より推進力の増え方が上回る、という理屈です。
実際、束を作らないウシの精子でも、同じ方向へ泳ぐ精子どうしが触れ合うと尾の打ち方が自然にそろい、1匹のときより速くなることが確かめられています。
くっついた瞬間から速くなるのなら、分泌物で貼りついただけの粗い束にも、生まれたその場で意味があります。
ところが、この説明では収まらない束があります。
袋に詰められたタイプの束は、メスの体内で袋を脱ぐまでまったく動きません。
速く泳ぐための工夫なら、泳げなくなる形にたどり着くのは筋が通りません。
また棒型にも引っかかりがあります。
棒のなかには、精子が1匹もついていない区間が長く続くものがあるのです。
精子をまとめて並べるだけなら、余った部分は要りません。
そのうえ、束になった精子の速さを実際に測った研究は今も少なく、結果もまちまちです。
速さのためという説明は、有力ではあっても裏づけが足りていないのが現状です。
そこで研究チームが目をつけたのが、精子をくっつけている糊のほうです。
実は精液には、メスの体内で精子をささえ、受精の成否を左右するタンパク質が含まれています。
ということは、束ねる工夫は、精子を速く泳がせるためだけではなく、受精を助ける道具を精子自身に運ばせるためにも生まれたのかもしれません。
ただし現段階でこれは仮説であり、束ねることの利点は、いまのところどの種でも確定していません。
また今回調べられたのは節足動物であり、ヒトの精子が束になるという話でもありません。
それでも今回の研究により、節足動物の進化史では精子は1匹でいるよりも、チームを組んでいる時間のほうが長かったことが示されました。
草むらのバッタも、台所に出るゴキブリも、この工夫を祖先から受け継いだままです。
競争か協力かではなく、どちらをどう組み合わせるか。
「協力は、生物としての成功を形づくるうえで、競争と同じくらい重要なのです」とドラス氏は述べています。





























