「大麻が発作を悪くした」とは、まだ言えない

ここで気になるのは、「発作がつらいから、それを和らげようと大麻に手を伸ばしたのでは」という逆の可能性です。
そこで研究チームは、経過がきちんと記録されていた頻繁な使用者15人について、大麻を使い始めた時期を確かめました。
すると15人全員が、最初の発作が起きる前から大麻を日常的に使っていたのです。
このことから研究チームは、「すでにあるてんかんへの対処として大麻を使っていただけ」という説明は当てはまりにくいと考えています。
もうひとつ意外だったのが、脳の画像です。
薬がここまで効かなくなるてんかんでは、画像で確かめられる脳の構造の傷が残るのが一般的だとされます。代表的なのが「海馬硬化(記憶に関わる海馬の神経細胞が減り、硬く縮む変化)」です。
ところが頻繁な使用者のMRI画像は、おおむね正常に見えたといいます。
画像の解析でも、2つのグループの間に統計的にはっきりした差は見つかりませんでした。
研究チームは、大麻の成分が結びつく「CB1受容体」が、記憶や発作の起点となる海馬のような場所に多く集まっている点に注目しています。
そして、高用量のTHCに長く触れ続けることで、脳の組織が目に見えて壊れるのではなく、神経回路の発火のバランスが乱れているのではないかという仮説を立てています。
とはいえ、今回わかったのはあくまで「関連」であり、大麻が発作を増やしたという因果関係を示したものではありません。
今回、大麻の使用はカルテに記録された内容から判断しています。今後は、自己申告ではなく検査で使用を客観的に測る、複数施設での前向き研究(対象者をこれから追いかけて調べる研究)が計画されています。
ストラック博士も「大麻がてんかんを悪化させるという決定的なデータはありません」と認めています。
そのうえで博士は、不安や眠りのために大麻を使っている人については、ほとんど規制されておらず脳への影響もよくわかっていないものより、よく理解されている薬で治療したいと語ります。
フィリベール=ロサス氏も「今のところ、患者さんに大麻が発作に影響しているかと聞かれたら、正直な答えは『わからない』です」と話しています。
どのくらいの量が問題なのか、やめれば良くなるのかに答えるには、より大きな研究が必要だというわけです。
「大麻はてんかんの薬になる」という話と、「大麻をほぼ毎日使う人ほど発作が多い」という話は、一見すると矛盾しているように聞こえます。
けれども、薬になっているのはTHCを含まない精製されたCBDで、店に並ぶ大麻はTHCが中心だという違いを思い出すと、この2つは同じ植物の別の顔を見ていたのかもしれません。
「植物由来だから体に優しい」ではなく、「何がどれだけ入っているのか」を問うことが、これからは大切になりそうです。
どうやら「天然だから安心」という理屈は、「野菜ジュースを飲んだからポテトチップスはセーフ」と同じくらい当てにならないようです。




















