遺伝子が語ったアラビア海のクジラの正体とは?

では、アラビア海のザトウクジラは、ほかの亜種とどれほど違っていたのでしょうか。
解析の結果、アラビア海のクジラとほかの3つの亜種とのあいだには、はっきりとした遺伝的な違いがあることが分かりました。
遺伝的な違いの大きさを表す2種類の指標のどちらでも、ほかの亜種との差が数値に表れていたのです。
また、イラクの標本はザトウクジラのものであり、いまアラビア海にいるクジラと近い間柄だと確かめられました。
これまでにも、繁殖や行動の面でほかの集団から切り離されていることを示す証拠がありました。それと合わせると、今回の遺伝子のデータは、アラビア海のザトウクジラを4つ目の亜種として認めることを支持しています。
その名前は、イラクの標本にちなんで「Megaptera novaeangliae indica」となる見込みです。
ただし、海の哺乳類の新しい亜種を正式に認めるのは海洋哺乳類学会の分類委員会であり、今回の成果はその判断を後押しするものという位置づけです。
論文の筆頭著者であるリタ・アマラル博士は、アラビア海のザトウクジラは何万年ものあいだ独自の進化の道を歩んできたと述べています。
研究チームは、この遺伝的な違いが、およそ4万3000〜11万3000年のあいだに、地理や環境の条件と行動の変化が絡み合って生まれた可能性があると考えています。
一方で、この特別なクジラたちの行く末は明るいとは言えません。
数は少なく、ここ20年ほどで増えている様子も見られていないのです。
さらに、遺伝子の多様さ(同じ集団の中での遺伝子のバラエティ)が低く、ザトウクジラの中でも特に厳しい状況にある可能性が指摘されています。
漁の道具や船との衝突、騒音や化学物質による汚染といった人間活動の脅威に加え、気候に左右されるエサの量の問題もあります。
研究チームは、この海からザトウクジラが姿を消してしまうおそれがあるとして、周りの国々が協力して急いで守る必要があると訴えています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(ザトウクジラの母、死んだ子に数時間寄り添う姿を観察)
オマーン環境庁のアイダ・アル・ジャブリ氏も、国際捕鯨委員会を通じた地域の協力や、国際的な仕組みで大切な海域の保護を強める検討など、実際の保護へ動き始めていると語っています。
同じ「ザトウクジラ」という名前でくくられていても、その中には何万年もかけて別の道を歩んできたグループが隠れていました。
アラビア海に響く歌も、ただのご当地ソングではなく、長い独り立ちの歴史を持つ仲間たちの歌として聴いてみると、少し違って聞こえてきそうです。
盆踊りにどうしてもついていけない時は、自分は回遊しないタイプなのだと言い張って、会場の端で静かに歌っておくのが良さそうです。




















