なぜ、目に見えた場所から音が聞こえてしまうのか

テレビから人の声が聞こえるとき、声は画面の中の人の口から出ているように感じられます。
けれど実際に音を出しているのは、画面の縁や部屋の隅に置かれたスピーカーです。
腹話術の舞台でも、同じことが起きています。声を出しているのは演者なのに、声は人形の口から聞こえます。
声の主を、目のほうが決めてしまう。これが腹話術の錯覚です。
脳がこんな取り違えをするのには、理由があります。
目の前の人が口を動かし、同時に声が聞こえる。このとき私たちは、二つを一つの出来事として受け取ります。
口の形が見えていれば、騒がしい場所でも相手の言葉は聞き取りやすくなります。目と耳を別々に働かせるより、まとめたほうが得なのです。
つまり腹話術の錯覚は、脳の欠陥ではありません。普段は役に立っている働きの、裏側で起きています。
ただし、同時に見聞きしたものが、いつも同じ出所とは限りません。
しかも、場所に関しては、目のほうがはるかに確かな手がかりになります。光がどこにあるかは、目の奥のどこに映ったかで決まります。
一方、音が右から来たのか左から来たのかは、両耳に届く時間と大きさのわずかな差から割り出すしかありません。
音だけを頼りに「どこで鳴ったか」を指させると、答えはかなりばらつきます。光の位置なら、ばらつきはごくわずかです。
そのため、別々の場所から届いた光と音を一つにまとめると、音の位置のほうが光の側へ引き寄せられてしまいます。
これまでの研究で音楽家はこの錯覚にかかりにくい、とこれまでの研究では報告されていましたが、なぜなのかはわかっていませんでした。
考えられる説明は二つあります。
一つは、音楽家は耳だけで音の位置を正確に捉えられるので、目の情報に頼らずに済むというものです。
もう一つは、そもそも音と光を「同じものから来た」と結びつける見込みが弱い、というものです。
音楽家が錯覚に強いのは、耳がいいからでしょうか。それとも、目と耳の結びつけ方そのものが違うからでしょうか?




