culture

ダ・ヴィンチの天才的な絵の才能は「斜視」が一因だった?

2018.10.20 Saturday

Point
・レオナルド・ダ・ヴィンチは外斜視だったために、3次元の世界を2次元の絵画に再現する能力に長けていた可能性が判明
・外斜視が出現する時としない時がある「間欠性外斜視」だったために、世界を立体的に捉える時と平面的に捉える時の切り替えが可能だった
・ダ・ヴィンチはルネサンス期に遠近法を確立した最初の画家である
芸術家は普通の人とは世界の見え方が違うと感激することがよくありますが、天才画家レオナルド・ダ・ヴィンチは、文字どおり「世界の見え方が違っていた」ようです。

この説を発表したのは、ロンドン大学シティ校の視覚神経科学者クリストファー・タイラー教授。ダ・ヴィンチを描いた肖像画や自画像、また彼の外見を表していると思われるその他の絵画を含む6点の絵画を分析し、ダ・ヴィンチが「斜視」だった可能性を示しました。記事は雑誌JAMA Ophthalmologyに掲載されました。

実のところ、ダ・ヴィンチ自身の手による自画像はほとんど残っていません。まず、アンドレア・デル・ヴェロッキオによる彫刻”David”と”Young Warrior”は、当時彼の元で修行していたダ・ヴィンチがモデルになっている可能性があるため対象になりました。また、ダ・ヴィンチの作品”Young John the Baptist”、”Salvator Mundi”、”Vitruvian Man”は、一般的には自画像とは考えられていませんが、彼自身の容姿を幾分反映しているとう理由で対象に含まれました。ダ・ヴィンチ自らも「魂は画家の腕を導き、彼自身を再現させる。なぜなら魂にとって、それが人物を描写する最良の方法だからだ」と語っています。また、ダ・ヴィンチ自身が晩年に描いた自画像1点も分析されました。

これらの作品に描かれた人物の黒目に沿って円を描き、瞳、虹彩、瞼の開き方を分析したところ、両目が10.3°外側に向く外斜視の傾向が、作品の多くに見つかりました。外斜視の傾向は自画像には当てはまらなかったのですが、これはダ・ヴィンチが外斜視が出現する時と出現しない時がある「間欠性外斜視」だったためではないかと、タイラー教授は考えています。つまり、ダ・ヴィンチがリラックスしていた時ほど外斜視の症状が現れ、ある対象に注意を向けて焦点を当てていた時は外斜視の症状が現れなかったということです。

左右の目は顔面上の位置が異なるため、同じものを見ていてもそれぞれの目が見る映像には「両眼視差」というズレが生じます。通常、私たちはそのズレを脳で処理して遠近を判別しますが、斜視ではこのズレを感じられないために奥行きを知覚しにくく、その結果片目で見た2次元の世界が見えます。タイラー教授によると、立体世界を平坦な世界に再現する絵画においては、この性質が有利に働くのではないかと推測しました。斜視であったことが、ダ・ヴィンチの奥行きを把握する無比の能力に役立った可能性があることは確かです。

実際に、画家は一般の人と比較して、斜視などの立体視(両目を使って奥行きを捉えること)の障害を持つ人が多いようです。レンブラントやピカソなどの有名な芸術家も、自画像の分析から斜視だったことが示されています。

もちろん、タイラー博士の分析結果はあくまでも仮説に過ぎず、ダ・ヴィンチに斜視があったかどうかを証明することは不可能です。とはいえ、間欠性外斜視が画家にとってむしろ好都合なことは事実。ダ・ヴィンチは、世界を片目で平面的に見る時と、両目で立体的に捉える時とを上手に切り替えていたのかもしれません。

実際、ダ・ヴィンチは「遠近法」を確立した最初の画家です。ダ・ヴィンチが登場するルネッサンス以前の画家たちは、世界を立体的に捉える方法を知らなかったため、もっと平面的な絵画を描いていました。ダ・ヴィンチが斜視だった(かもしれない)ことが美術史にもたらした影響が計り知れないことを考えると、「偶然」がインパクトを与える歴史のロマンを感じずにはいられません。

via: livescience, inverse/ translated & text by まりえってぃ

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