抗NMDA受容体抗体脳炎とは
抗NMDA受容体抗体脳炎とは、脳の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体、NMDA型グルタミン酸受容体に自己抗体ができることによる急性型の脳炎です。
医学的な説は数ありますが、これまでよく知られてきた説は、ライ麦などの穀物に寄生する麦角菌が、痙攣、幻覚、発作などの中毒症状を引き起こしたというものです。
ですが、麦角中毒を特徴づける胃腸の不調や、顔面蒼白、過剰な食欲といった症状は、セイラムの少女たちには見られませんでした。また、麦角中毒では虹色、後光、残像などの幻覚症状が現れるのに対し、少女たちは輪郭のはっきりした像が襲って来ると訴えていました。
抗NMDA受容体抗体脳炎の進行は、インフルエンザに似た初期症状から始まります。数週間で、患者は神や悪魔のことで頭がいっぱいになり、妄想や不眠で苦しむようになり、同じ言葉を繰り返し唱えたかと思うと、突然一言も発さなくなります。
さらに進行すると、発作、身悶え、手足のねじれ、口や舌が奇妙に同じ動きを繰り返す現象が始まります。脈拍や血圧は昇降を繰り返し、大量の汗と涎を垂らし、苦痛に顔を歪めます。そして、一定の姿勢を長時間保ったかと思うと、突然昏睡状態に陥るのです。
NMDA受容体は、行動、学習、記憶だけでなく、シナプス間の信号伝達を行い、神経可塑性を与える役割を担っています。NMDA受容体を攻撃する抗体は、何らかの感染症によって起きる自己免疫反応の一部として生まれると考えられています。
抗NMDA受容体抗体脳炎を患った女性の中には、卵巣内に毛髪、歯、骨が集まって形成された奇形腫を持っている例が見つかっています。こうした腫瘍には、NMDA受容体を持つ神経組織が含まれています。これらの受容体が抗体の生産を引き起こし、脳や腫瘍に含まれるNMDA受容体と交差反応するのです。