特別なイギリスの「庭園隠者」
一般的に隠者の仕事は助言や来客の世話係でしたが、イギリス貴族は愉しみ方が一味違っていました。
隠者たちを家具や装飾品で整えた舞台の中に置き、身動きしないようポーズを取らせ、ジオラマとして観賞したのです。こうした庭園装飾専門の隠者たちは、「庭園隠者」とは別に「観賞隠者」と呼ばれて親しまれました。
実例としては、1784年ころのイングランドにあるホークストーン庭園の観賞隠者の記録が残っています。舞台設定として、机の上に死の象徴としての頭蓋骨や砂時計、古典図書や眼鏡が配置され、意図的に一つのジオラマが作り出されました。その前に座らされた隠者は虚空を見つめるようにして沈黙を貫きます。この隠者は、なんと齢90歳のベテラン隠者でした。
この姿勢のまま来客を迎えて、一切の意思疎通を図ることなく、客人が帰るまでじっとポーズを取り続けるのです。まるで某テーマパークにあるカリブの海賊のようですね。
当時のイギリスの貴族層では「憂鬱な人物」が最も美徳とされており、物静かで内省的な人ほど尊敬の的となりました。そのため雇い主は、この隠者に対して「陰鬱」に振る舞うよう指示していたようです。
ところが隠者の流行も19世紀に入ると徐々に弱まり、今では当時の小屋がいくつか残されている状態。ただ、こんなに魅力的な仕事がなくなってはもったいない。「庭園隠者」に名乗りを挙げる人は、現代にもたくさんいるかも…?