■人工的な代謝系を組み込むことで、構造の生成と分解が自律的に制御されるDNA材料が開発された
■このDNA材料をマイクロ流体装置に組み込むことで、自発的に生成して移動し、競争さえするロボットができた
■人工代謝で動く分子ロボットの開発は初期段階だが、洗練された行動を生んだことの意義は大きい
生物と非生物の境界線とは一体何だろうか?
コーネル大学で分子ロボティクスを研究する講師の浜田 省吾氏らが、生物としての特性を備えた人工物の開発に成功。特殊なDNA材料から、生物が持つ3つの重要な特性である「代謝・自己集合・組織化」を行うロボットを作り出した。
まるで「人間とは」「意識とは」と問いかけられているようだ。
https://robotics.sciencemag.org/content/4/29/eaaw3512
“DNA-based Assembly and Synthesis of Hierarchical”、略してDASHと呼ばれるこのプロセスは、代謝を行うDNA材料を人工的に作る技術だ。代謝とは、食糧を生命維持に必要なエネルギーに変換する一連の化学処理を指す。
浜田氏らが目指したのは、生物そのものを作り出すことではなく、生物のような特性を持つ機械を作ることだった。こちらが、その紹介動画だ。
生体材料の自律的な代謝を促す「DASH」
鍵となったのは、代謝のプログラム化と、DNAのコード化だ。DNAに代謝と自律的再生の指示を与えることで、自発的成長を促したというわけだ。
浜田氏らは代謝を、統制され、かつ階層的な生物学的処理を通じて、生体材料が自律的に合成・集合・消散・分解されるシステムとして捉えた。生物は生きていくために、新しい細胞を再生するだけでなく、古い細胞や不要な物質を捨てる能力を備えている必要がある。このプロセスを再現したのがDASHだ。
まず、ナノスケールのブロックから自律的に生まれるDNA材料を開発した。この物質は、次々と自発的に配列を変えることができる。
DNA材料に含まれるDNA分子は何百・何千回と複製を繰り返し、やがて長さ数ミリメートルのDNAの鎖になる。その溶液を特殊なマイクロ流体装置に組み込み、生合成を促すのだ。
すると、DNAは自律的に合成しはじめる。ロボットの頭が成長し、尻尾が劣化するといった現象が起きると、移動運動さえ可能になる。ロボットがスライムのように這う様子は圧巻だ。