
Point
■同じ巣にいるキアシセグロカモメの卵同士が、振動によって危険情報を伝達しあっていることが判明
■非遺伝的メカニズムを通じて社会的に獲得される情報は、発生上の可塑性を促進する上で重要な役割を担う
■警告音にさらされた個体を含む巣の卵は、危険への反応が上手くなる代わりに、細胞のエネルギー生産や成長が妨げられる
孵化前の鳥の卵は、親鳥が発する警告音を聴くことができます。それだけでも凄いことですが、最近の研究で、同じ巣にいる卵が兄弟同士でその情報を伝達しあっていることが明らかになりました。
胎盤を持つ哺乳類と違って、鳥類は卵として生まれた後は母体の変化の影響を受けることがありません。その胚が、孵化前にすでに周囲の環境に適応しているなんて…にわかには信じられないことです。
論文は、雑誌「Nature Ecology & Evolution」に掲載されています。
https://www.nature.com/articles/s41559-019-0929-8
警告音を聴いた個体が同じ巣にいると兄弟全員「用心深く」なる!?
研究チームはまず、スペインのサルボラ島に生息する野生のキアシセグロカモメの繁殖コロニーから卵を集めました。これらの卵は普段から、特にミンクなどの小型肉食動物による捕食の危険にさらされています。
研究チームは、これらの卵を3つずつのグループに分けて孵化器の中に入れ、各グループを実験群(黄色)と対照群(青)のどちらかとしました。

各グループの3つの卵のうち2つ(濃い色で示された卵)は、1日に4回孵化器の外へ出され、防音箱に移されました。実験群が移された防音箱の中では、成鳥が捕食の危険が迫っていることを示すために鳴らす警告音を録音したものが流されました。対照群が移された防音箱の中では何も音が流されませんでした。
その後、これらの卵は再び孵化器の中へ戻され、孵化器の中に残されていた卵と物理的に接触しました。
この実験の結果、警告音にさらされた卵は、無音の箱に置かれた卵と比べて、孵化器の中で頻繁に震えることが確認されました。
さらに実験群は、警告音にさらされなかった卵も含め、対照群よりも孵化に時間が掛かっただけでなく、実験群の3羽すべてが同じ発達上の変化、つまり「鳴き声がより少なく、身をかがめる仕草をより頻繁に行う」という変化を示しました。こうした「用心深い」振る舞いは、親鳥の警告音に対する反応としてよく見られる防衛行動です。
また、実験群のグループの雛は3羽すべてが、対照群には見られない生理学的特性を示しました。ストレスホルモン値が高く、細胞あたりのミトコンドリアDNAの複製が少なく、跗蹠(踵から足の指の付け根まで部分)の長さが短かったのです。
このことは、一種の二律背反とも言えます。警告音にさらされた個体を含む巣の卵は、危険への反応が上手くなる代わりに、細胞のエネルギー生産や成長が妨げられるからです。