
Point
■Tレックスの頭蓋骨には大きな穴が2つ空いており、およそ100年の間、顎の動きを連動する筋肉の収納スペースと考えられていた
■しかし新たな説として、穴の中には無数の血管が詰まっており、体温調節をするための「エアコン」であったとする説が浮上
■頭蓋骨に同じ穴を持つワニは、穴を通して発熱や体温のクールダウンを行なうことが分かっている
今日まで地球上に存在した生物の中でも、最大級の肉食動物であるティラノサウルス。
体長12.3m、体重14トンにも及び、強烈なパワーと高い俊敏性を誇る地上最強の生物であります。しかし、凄いのはそれだけではなかったようです。
以前からティラノサウルの頭蓋骨には大きな穴が2つ空いていることが知られており、これは100年もの間、顎の動きを支える筋肉が収納されているスペースだと考えられていました。
ところが、ミズーリ大学、オハイオ大学、フロリダ大学の共同研究により、この穴は体温を調節するための生物学的なエア・コンディショナーである可能性が新たに示唆されています。
今回の新たな説により、100年の定説が覆されるかもしれません。
研究の詳細は、7月1日付けで「The Anatomical Record」に掲載されました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ar.24218
Tレックスの知られざる力は「体温調節」だった?
頭蓋骨に確認される穴は、骨のちょうど後ろ側に空いていることから「背側頭窓(dorso-temporal fenestra)」と呼ばれています。
発見以来、この穴は顎の働きと連動する筋肉の収納スペースと考えられていました。しかし研究チームのケイシー・ホリデイ氏は、「筋肉が顎から直接伸び上がって、90度向きを変え、頭蓋骨の背側まで達することは考えられない」と指摘します。
実は似たような穴は、「双弓類」と呼ばれるワニやトカゲなども持っており、そこには無数の血管がぎっしりと詰まっています。
研究チームは、この穴の役割を解明するため、フロリダ州にある「セント・アウグスティン・アリゲーター動物園(St. Augustine Alligator Farm Zoological Park)」に出向き、赤外線サーモグラフィーを用いてワニの体熱を視覚化しました。

変温動物(冷血動物)に属するワニは、自らの体温を外部の環境に依存させて生きています。例えば、寒い場所にいれば体温は自然と下がっていきますし、逆に暑い場所にいれば体温は上昇します。
体温は、生物が活動するための燃料ですから、体温が低いと行動できません。なので、変温動物は一般的に温暖な場所に生息することが多く、寒い時期は冬眠に入るのです。
発熱のプロセスも、私たち人間のような恒温動物(体温が常に一定の生物)とはまったく異なります。

そしてワニをサーモグラフィーで確認してみると、気温が低い時には体温を高めようとして、穴が赤くなるのが観察されたのです。これはワニが穴の血管を通じて、発熱を行なっている証拠となります。
反対に、気温が高い状態では体温を下げようとして、穴が青暗くなっていく様子が確認されました。これはまさしく、夏と冬の気温に合わせて使い分けるエアコンのような働きです。
これを受けて研究チームは、ティラノサウルスの穴にもワニと同様に無数の血管が詰まっていて、体温調節を行なっていたのではないかと推測しています。
一方で、恐竜たちが変温動物であったのか、恒温動物であったのかは専門家の間でも議論が分かれているため、ティラノサウルスの穴が体温調節のためのものであると断言することはできません。
しかし彼らが穴を使って、先史時代のうだるような暑さと湿度にうまく対処していた可能性は十分に考えられるでしょう。