複数の望遠鏡を駆使した観測
今回の研究チームはみずがめ座方向の地球から115億光年離れた原始銀河集団SSA22に注目し、宇宙網の検出に挑戦しました。この領域は、活発な銀河やブラックホールが確認されており、宇宙網の検出にも良い候補なのです。
最初にチームはミリ波、X線による観測を行い、活発な銀河やブラックホールの分布を確認しマップの作成を行いました。
宇宙網は、主成分が水素ガスです。これは銀河などの天体の光を受けて紫外線波長で発光することが知られています。宇宙は膨張しているので、遠方から届く光は、ドップラー効果によって波長が伸びる赤方偏移を起こしています。
つまり、これら水素ガスの輝きは可視光域で観測が可能と予想されるのです。この観測にはすばる望遠鏡が利用されました。すばる望遠鏡は日本の国立天文台がハワイにある富士山よりも高いマウナ・ケアの山頂に建設した望遠鏡で、広視野の可視光観測に威力を発揮します。
しかし、これによって確認できる光は非常に微かなものであるため、さらにヨーロッパ南天天文台がチリの高所に建設したVLT望遠鏡による観測も行われました。これは可視光から近赤外線域で観測を行う望遠鏡です。この望遠鏡の装置では、面分光によって、3次元的な情報まで得ることができます。
こうして、複数の望遠鏡による様々な波長域での多様な観測が実現し、これらの情報を統合して宇宙網の姿がおぼろげながらも明らかになって来たのです。
こうして確認すると、活発な銀河や巨大ブラックホールは宇宙網のガス分布に沿って存在しており、宇宙網から流れ込んだガスを材料に天体が成長するという宇宙進化モデルの予想は、観測からも支持できることがわかります。
銀河由来の光の照り返しで、宇宙網の水素ガスを見つけるという極めて繊細な観測の成果が、今回の宇宙網初観測を成功させた決めてだといいます。
宇宙でもっとも微弱であり最大の構造と考えられる宇宙網の観測は、宇宙進化の理解に重要な鍵となります。しかし、今回観測されたものは、広大な宇宙網のほんの一部に過ぎないものです。
かつてハッブルは、宇宙が膨張している事実を遠方銀河の赤方偏移を観測することで証明しました。天文学において観測で予想を確認するというのは、非常に重要なステップです。
微弱な宇宙網の光を捉えた今回の観測も、天文学史に刻まれる偉大な功績なのでしょう。