- 赤ちゃんと遊んでいるとき、言葉は通じなくても不思議なつながりを感じることがある
- 赤ちゃんとの交流は、大人の脳を赤ちゃんと同期させる作用があると判明した
赤ちゃんとの交流は不思議なもので、言葉が通じるわけではないのに、一緒に遊んだりあやしたりしていると不思議なつながりを感じる瞬間があります。
それは気のせいではありません。
プリンストン大学の研究チームは、赤ちゃんと大人の脳がどのように相互作用について、初めてとなる研究を行いました。その結果、アイコンタクトなどを繰り返すうちに、赤ちゃんと大人の脳波が奇妙に同期していく事実を発見したのです。
この研究は、プリンストン神経科学研究所(PNI)のElise A. Piazza氏を筆頭とした研究チームより発表され、心理学の科学雑誌『Psychological Science』に2019年12月17日付けで掲載されています。
https://doi.org/10.1177/0956797619878698
大人と赤ちゃんの脳の同調
これまでの脳の研究によると、人は映画を見たり物語を聞いたりするとき、他の視聴者たちと脳波が同調するという結果が示されています。
こうした脳の同調能力は、生後何年で発達するかは現在のところわかっていません。
しかし、こうした他者との同調は成長時の社会性の発達や言語学習に重要な意味を持っていると考えられています。
こうした研究は行われていたのですが、成人と赤ちゃんのリアルタイムなコミュニケーションを研究することには苦労が伴いました。
まず研究チームは、赤ちゃんから安全に脳波を測定するための測定装置を製作しなければならず、それが完成した後も実験に参加した42人の乳幼児の中に、実験中ぐずったり測定用の帽子を嫌がったりする子が現れたため、結局18人しか被験者が残りませんでした。
そんな苦労を伴いながら進められた実験では、予測、言語処理、共感などを司る57種の脳波が測定されました。
実験は2つのパターンで行われました。1つは大人が赤ちゃんと対面で視線を合わせながらおもちゃを使うなどして遊ぶというもの。もう1つは赤ちゃんとは向き合わずに別の大人と話をするというものです。
その結果、大人と赤ちゃんが対面で遊んだり、物語を聞かせたりしているとき、両者の脳は世界の理解などに関わる高度な領域が同期して活動いるとわかりました。
しかし、互いが背を向けて関わらないようにした途端、両者の結びつきはなくなりました。
これはおおよそ研究者の予想通りの結果でしたが、データには予想と異なる意外な点がありました。それは乳幼児では発達していないと考えられている前頭前野の学習や、計画の実行に関わる領域でも強い結びつきが生じていたことです。
また面白いことに、赤ちゃんの脳は大人の活動に対して受動的に活動しているだけでなく、ときに大人の脳波に対してリードしている場面があったのです。これは次に何のおもちゃを拾うか、どういう言葉を言うか、赤ちゃんが大人の行動を誘導していたことを示唆しています。
「大人と子供は、コミュニケーションを取りながらフィードバックループを形成しているようだ」と研究者のPiazza氏は語っています。
大人の脳が赤ちゃんがいつ微笑むかを予測し、赤ちゃんの脳は大人が話しかけるタイミングを予測して、アイコンタクトや、同じおもちゃを視線で追跡することで、間接的に互いの脳に影響を及ぼし合っていたのです。
また赤ちゃんは大人の言葉の意味を解読しようとしたり、それを言った意図を分析しようとする脳の活動も示しました。
このことから、大人と子供の対面のコミュニケーションは、子供の学習や脳の発達に非常に重要な意味を持っているようです。これは、自閉症の子供が他者とのつながりをどのように崩壊させてしまうか、という部分の研究にも役立つと考えられます。
また教育的アプローチに関する研究にも新たな知見をもたらすもので、早期言語学習などにも役立つ可能性があります。
そして、この赤ちゃんとのコミュニケーションは、大人の脳にも同時に影響を与えていることが明らかにしました。
大人が言葉は通じなくても赤ちゃんと繋がりを感じる理由や、ついつい子供目線で赤ちゃん言葉を話してしまったりすることも、こうした互いの脳の同期から作用する可能性があります。
しかし、昨今は少子化も進んでいるため、「バブみを感じたことならあるけど、赤ちゃんと脳が同期する体験はよくわからない」という人も多いかもしれませんね。
子供と遊ぶことは、どうやら大人の脳にも良い作用をもたらすようです。
もっと積極的に子供と関わる機会を持つことが現代の大人には大切なのかもしれません。まあ、大人の心は子供に浄化されてもすぐ汚れるわけですが。