極端な低確率の出来事もカバーできる宇宙
生命がランダムな化学反応だけで誕生する確率は、極めて低いと言われています。
それは猿が適当に打ったタイプライターでシェイクスピアを書く確率とか、バラバラの部品を袋に入れて振っていたら時計が完成する確率などと比喩されたりするレベルです。
これまでの宇宙生命誕生の理論は、この極端な低確率を偶然で説明することは難しいと考え、生命誕生に作用した何らかの特別なプロセスを見つけ出そうとしていました。
しかし、今回の研究者戸谷氏が考えたのは、最新の宇宙論が示すような莫大な数の星があるならば、特別なプロセスを必要とせずとも、本当にただの偶然で生命は誕生できるのではないか、ということでした。
そこで戸谷氏は、原始の地球型惑星において、ヌクレオチドがランダムに結合して生命誕生に必要なRNAを生み出す確率と、全宇宙の星の数を結びつける方程式を作りました。
この方程式は、RNAが高分子化する物理的過程を考慮した、かなり具体的な最初の生命の発生確率を計算しています。
生命科学の研究では、自己複製などの能力を持つRNAが生まれるためには、ヌクレオチドが40〜100個以上つながらなければならないと言われています。
この長さで正しい情報配列が得られれば、最初の生命が誕生する可能性があるのです。
今回の研究では、ヌクレオチドの結合は最低基準の40個の長さで特定の情報配列を持つRNAが生まれる確率を計算しました。それによると、宇宙に必要な星の数は1040個程度となりました。
RNAの長さが100単位になった場合、かなり明確に生命誕生の可能性が得られますが、この場合必要な星の数は10180個です。
現在人類が観測可能な星の数は1022個と言われていますが、観測可能な宇宙の外に広大なインフレーション宇宙が広がっていると考えた場合、ありえない数ではなくなります。
不確定な要因により、この確率計算が1万倍あるいは1億倍ズレていたとしても、結論にはほとんど影響はありません。
この研究結果は、膨張する宇宙のどこかで生命が誕生すればいいと考えるならば、それは完全な偶然に頼った方法でも十分可能であることを示しています。
しかし、逆に言えば生命誕生はそれだけ宇宙ではまれな出来事であると言うこともできます。
少なくとも、今回の結果を考慮するならば、観測可能な宇宙内では、地球以外に生命が誕生した可能性のある星は、まず存在しないことになります。
研究者の見解によれば、「残念ながら、人類が地球外生命に出会う可能性は限りなく低い」とのこと。
しかし、もちろん「未知のプロセスによって生命はもっと高い確率で発生する場合があり、実は宇宙は生命で満ち溢れている」という可能性も否定はできません。
ただ、その可能性を積極的に支持する科学的根拠は現在のところありません。
生命はたまたま偶然、とんでもなく低確率のもとに地球に誕生し、そしてそれはおそらく観測可能な宇宙の中で地球だけに起きた出来事、と考えるのが妥当なようです。