- 火星の土からチオフェンと呼ばれる有機物が検出された
- 有機物は生物学的な方法で生成された可能性がある
火星における生命の探索はクライマックスに近づいているかもしれません。
近年の火星探査機キュリオシティの活躍によって、「チオフェン」と呼ばれる硫黄を含んだ環状の有機物が発見されました。
地球に存在するチオフェンは、石油や原油、また藍藻類の死骸と泥が交互に積層したストロマライトや微化石に含まれているほか、トリュフの元となる菌類が生産することが知られています。
今回、ドイツのベルリン工科大学の研究者たちによって、火星のチオフェンの起源に迫る研究が行われました。
なぜ火星にトリュフの成分が存在しているのでしょうか?
研究内容はベルリン工科大学のジェイコブ・ハインツ氏らによってまとめられ、2月24日に学術雑誌「Astrobiology」に掲載されました。
https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/ast.2019.2139
提示された2つのシナリオ
地球に存在するチオフェンのほとんどは、微生物によって作られています。
トリュフにチオフェンが含まれているのも、トリュフを形成する菌が硫酸塩還元プロセスとよばれる代謝活動よって合成したからなのです。
しかし、地球とは異なる環境をもつ火星では、チオフェンは必ずしも生物の存在を示す指標にはなりません。
チオフェンには生物を介さない工業的な生産方法もあるからです。
そこで研究者たちは、火星のチオフェンの起源について、2つのシナリオを考えました。
一つは生物学的な起源です。
近年の探索により、火星はかつて(30臆年前)温暖で海を持っており、現在も地下に液体の水が存在する可能性が高いとされています。
もし火星の海に生まれた生命が、地球生命と同じ硫酸塩還元プロセスを行う能力を持っていれば、チオフェンが生産されたでしょう。
もう一つは非生物学的な起源です。
チオフェンは120℃以上の条件下で進む、熱力学的硫酸還元でも生成されます。
また火星に落下した、有機物を豊富に含んだ隕石によってもたらされた可能性もあります。
しかし現状では、どちらの説も決定打に欠けます。
さらなる証拠を得るためには、今年の7月に予定されている次の探査が必要です。
そして最終的には、人間による顕微鏡下での観察が求められます。
共同研究者の ディルク・シュルツェ・マック氏は「特別な説には、特別な証拠が必要だ」と故カール・セーガンの言葉を引用し、研究結果に慎重な姿勢をみせました。
残念ながら、火星にトリュフが生えているわけではなさそうです。