- 1518年のフランスで、人々が死ぬまで踊り続ける謎の疫病が発生
- 極度の疲労や衰弱が原因で、100人近くが死亡した
私達はいま新型コロナウイルスという新たな脅威に晒されていますが、人類はこれまでにも多くの疫病を経験してきました。
黒死病や梅毒、インフルエンザ、マラリア、エボラ出血熱など、人類の歴史は疫病との闘いの歴史でもあります。
その中でも最も奇妙な疫病は、1518年にフランスのストラスブールで発生した「踊りのペスト(Dancing plague of 1518)」でしょう。
この疫病は、多くの人が死ぬまで踊り続けるという人類史上最も狂気的な出来事でした。
しかも、その正確な原因はいまだに解明されていないのです。
狂気は伝染する
始まりは、フラウ・トロフィアという一人の女性からでした。
突然、村の通りで狂ったように踊り始めたのです。彼女は気絶するまで踊り、意識を取り戻してはまた踊るを繰り返し、実に6日間も踊り狂いました。
しかし、彼女が落ち着き始めた頃、狂気は周囲の人々に伝染し、わずか1週間で40人ほどが同じ症状にかかっていたのです。
その後も狂気の輪は拡がり続け、1ヶ月が過ぎた頃には400人以上に伝染し、全員が、疲れ果て、失神してもなお、踊りをやめようとしなかったのです。
その結果、極度の疲労や衰弱、心臓発作、脳卒中が原因で、100人近くが死亡しています。
「踊りのペスト」は、中世にヨーロッパの全土を襲った「黒死病(ペスト)」に由来しています。
このペストにより、当時のヨーロッパ総人口の3〜5割が死亡したと言われます。
当時の医療ではまともな治療法もなく、死者は増え続け、人々は祈りを捧げる以外になすすべはありませんでした。
実はこの時、祈祷をする人々が次第に狂気に冒され、倒れるまで踊り始めたという記録が残っています。この様子が「死の舞踏」として、15世紀に多くの類似する絵画が描かれました。
まさか、その後「死の舞踏」が現実に起こるとは誰も想定していなかったでしょう。
さらに、当時、町の役人たちは「踊り続けることで治る」と考え、感染者に市庁舎や広場の一部を開放し、踊るためだけのダンスフロアまで建てたのです。
また、感染者が踊り続けられるよう、専用の楽団まで用意されたと伝えられています。
踊りのペストの原因が、何らかの病原菌にあったのか、集団ヒステリーにあったのかは分かりません。しかし、人々の間違った判断が、狂気の伝染を増長した可能性は高いでしょう。
特にSNSの発達した現代では、誤情報がウイルスよりも素早く、広範囲に拡がり、混乱を招きます。
こうしたデマの拡散も、ある意味で、疫病と呼べるのではないでしょうか。