リプログラムした細胞を盲目のマウスに移植する

5つの小分子と3つの添加物を加えることで、皮膚細胞は見た目も発現している遺伝子も、桿体細胞と呼ばれる目の光を感知できる視覚細胞に変化していきました。
しかし、これだけでは細胞が本当に視覚細胞としての機能を獲得しているかはわかりません。
そこで研究者は遺伝操作によって、生まれつき桿体細胞が機能を失っている盲目マウスの網膜に、リプログラムした細胞を移植することにしました。
移植によってマウスが光を感知できるようになれば、リプログラムされた細胞は機能の面でも、本物の視覚細胞であることが証明されるからです。
移植実験を行って一か月後、マウスの目にライトの光があたり、瞳孔が収縮するかが確かめられました。
盲目の状態では目にライトが当たっても瞳孔の収縮(光量の絞り)は起こりませんでしたが、移植を受けた14匹のマウスのうち、6匹のマウスで瞳孔の収縮が確認されました。
さらに証拠を確かなものにするために、これら6匹のマウスに対してライトに対する日よけが与えられました。
マウスは暗がりを好む性質があるために、移植によって光を感知できるようになっていれば、日よけが提供する日陰にはいる率が、健康なマウスと同じになるはずです。
実験を行った結果、瞳孔の収縮が確認された6匹のマウスは、健康なマウスと同じように日陰を好むことが判明しました。
皮膚からダイレクト・リプログラムした視覚細胞でも、生体内で正常な機能を発揮できたのです。

ですが研究者はまだ満足していません。
さらなる検証の為に、光を獲得した元盲目マウスたちから、網膜が取り出されました。
上の図は、光を取り戻した6匹のマウスから摘出された網膜の染色画像です。
画像では、緑色の桿体細胞が網膜と一体化して、ニューロンで視覚神経と繋がっている様子がうかがえます。
このことから、移植されたダイレクト・リプログラム細胞にも、神経との接続能力があることが判明しました。