生物の中には、色鮮やかな模様を持っていたり、生活の邪魔になるんじゃないかと思えるほど角が巨大化した種が存在しています。
こうした進化のほとんどは求愛行動のためで、個体にとっては有利でも、種全体の増殖には貢献しません。
種の繁栄という観点から見れば、これらはすべて「ムダの進化」と言えるのです。
自然界は厳格な競争社会であるはずなのに、なぜそんな「ムダの進化」が起きるのでしょうか?
実はこの「ムダの進化」は、生態学でこれまで謎の多かった”1つの生息地で競争に弱い生物を含めて多様な種の存在が維持されている理由”と密接な関係を持っているかもしれないのです。
東北大学を初めとした複数の大学・研究機関からなる共同研究グループは、今まで結びつけて考えられることのなかった、「ムダの進化」こそが自然界で競争排除を起きにくくする要因だという、斬新な研究を発表しています。
なぜ多様な生物種が1つの場所に共存できるのか?
生態学の理論では、1つの生息地に多様な種が共存することは難しいとされています。
餌資源や生息場所が似通った種同士では、当然競争が起きます。その場合、もっとも効率よく進化した種が生き残り、それ以外の競争に弱い種を駆逐してしまう、というのが自然な流れだからです。
しかし、現実には非常にたくさんの生物種が同じ生息地に共存しています。これは生態学の理論予測に合わない状況です。
この問題は1959年アメリカの生態学者George E. Hutchinsonが提唱したものですが、60年以上経っても未だ生態学の未解決問題として残っています。
この問題解決にユニークな提案を行ったのが、今回の研究です。
その内容は、競争に強い種は、メスにモテるために余計なエネルギーを浪費するようになることで、他種族への競争排除の圧力を弱めている、というものです。
研究グループが目をつけたのは、クジャクの派手な羽根や、鳥や昆虫、カエルなどに見られる独特の歌声です。
これらは主に求愛行動のため獲得された「モテ形質」と呼ぶべき特徴で、種の繁栄や生存のために有利な進化ではありません。
研究グループは、このムダの進化が起きるプロセスと、競争関係にある異なる生物種の個体数変動プロセスを同時に考慮した、数理モデルを構築しました。
このモデルではムダの進化が起きる場合と起きない場合で2種の生物の生存状況が比較されました。
すると競争に強い種の個体数が増えるほどムダの進化が生じやすくなり、結果的にムダの進化が存在するパターンでは、競争に弱い種が排除されなくなったのです