- 髪にはその人が何を食べたかという食事の情報がミリ単位で記録されている
- 炭素同位体の含有量からは、その人の済む地域まで特定できる
- さらに予想外にも同位体の量が、サンプルを集めた美容院の価格帯に相関することを発見した
髪の毛の繊維はアミノ酸から作られていて、食べ物に含まれるタンパク質の化学的な痕跡を保存しています。
例えば髪の毛を調べれば、あなたが菜食主義なのか、肉食を好むのかを判断することができるのです。
このように髪の毛にはミリ単位で、あなたが何の食事をしたかという記録が残っています。
今回の研究は、こうした髪の毛の分析研究の中で、意外なことにその人の経済状況まで明らかにできてしまうことを発見しました。
髪から経済状況とは、一体どのようにつながるのでしょうか?
なぜ髪の毛から食事の痕跡がわかるのか?
今回の研究者たちは1990年代から、髪に記録される食事の痕跡について研究していました。
食べ物の中に含まれる窒素や炭素には、重さが異なる同位体が含まれています。この同位体の比率は、食物源がなんであったかによって異なってくるのです。
髪の毛の原料はアミノ酸だと先に述べましたが、このアミノ酸には窒素や炭素、酸素などが含まれています。
食べ物が体内でアミノ酸に分解される際、炭素や窒素の同位体は、髪の毛を含めて体中に浸透していきます。この同位体比率から、さまざまな情報が読み取れるのです。
例えば水も地域によって含まれる酸素同位体の比率が異なっています。今回の研究チームは2008年に、髪の毛に含まれる水由来の同位体の比率から、その人がどこを旅行したかを追跡できるという研究結果を発表しています。
研究チームはさらにこの研究を発展させ、毛髪中の炭素や窒素の同位体からもっと他にわかることはないかを検討し始めました。
家畜の飼育に用いられる飼料には、主にトウモロコシが含まれています。このトウモロコシやサトウキビなどはC4植物と呼ばれるグループです。
C4植物とはC型光合成という光合成を行う植物のことで、これはマメ科の植物や野菜などを含むC3植物とは異なる経路の光合成を行っています。
そして、光合成のタイプが異なると同位体比も異なるのです。
アミノ酸は、タンパク質を分解して作られます。肉食べたとき摂取される動物性タンパク質は、その家畜が食べていた飼料由来の同位体比に近くなることが知られています。
そのためトウモロコシの飼料で育った家畜の肉を食べると、髪の毛を構成するアミノ酸の同位体比は、トウモロコシに近いものになるのです。
もしこれが菜食主義の人だった場合、タンパク質は豆・野菜などのC3植物由来のものになります。すると髪の毛の同位体比もC3植物に近くなるのです。
こうして、髪の毛からその人の食生活が分かってしまうのです。