量子ビットの「量子もつれ」状態は簡単に破壊されてしまう
量子コンピュータの核である量子ビットの「量子もつれ」状態は、非常にデリケートであることが知られていました。
「量子もつれ」が崩壊してしまえば、演算結果はエラーとなり正しい答えは得られません。
そのため現在の量子コンピュータの多くは内部的なノイズを減らし量子ビットの安定性を保つために、絶対零度に近い極低温状態に保たれています。
しかし性能が上昇して「量子もつれ」の維持時間の限界値が伸びるにつれ新たな問題が現れました。
宇宙空間から地球に降り注ぐ極めて貫通力の高い宇宙放射線をはじめとした環境放射線が量子ビットのもつれ状態の維持に深刻なダメージを与えていることが判明したのです。実際、量子コンピュータで生じるエラーの10回に1回はこの環境放射線が原因だったとのこと。
そこでアメリカ、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちは、環境放射線が量子ビットに与える影響を本格的に調べることにしました。
実験にあたっては上の図のような装置が使われました。
量子コンピュータを中心に置いて、周囲を上下移動可能な重さ2トンの鉛のシールドで覆ったのです。
こうすることで、環境放射線がある状態とない状態を自在に作り出すことが可能となり、環境放射線の影響度を正確に測定できます。
結果、現在の地球の地表においては環境放射線の影響により、「量子もつれ」状態は4マイクロ秒が限度であることがわかりました。
最新の量子コンピューターは既に計算上は200マイクロ秒以上のもつれの維持が可能となっていますが、機械内部のノイズを全て取り除いたとしても、環境放射線のもたらす影響のせいで安定稼働時間は50分の1以下に限定されていることがわかりました。