涙を見るときの人の反応
結果は、泣いている顔を見るときと、泣いていない顔を見るときの被験者の注視パターンには、明らかな違いが見られました。
まず、被験者は泣いている顔に対しては目の周りと頬、つまりは涙の目立つ位置を注視することが多くなり、また凝視する時間も長くなっていました。
これは涙が人の注意を引いていることを示唆しています。
さらに涙があると感情的に強いと判断され、より誠実であると評価されました。
この評価の違いは明確なものだった、と研究者は結果を強調しています。
顔画像の頬に涙滴が1つあるだけで、感情的な推論や誠実さの認識が大きく向上したのです。
漫画やアニメの表現では、ただ表情を描くだけより、汗を1つ描き足す、涙や効果線を描き足すことで、キャラクターの感情をより強調して表現します。
こうした表現に慣れ親しんでいる人からは、この結果は当然に思えるでしょうし、納得の行くものでしょう。
これは漫画固有の表現方法ではなく、現実の人間の表情に対しても有効な効果があるようです。
また、興味深いことに、こうした結果は被験者の性格特性に影響されていました。
被験者の共感スコアが高いほど、彼らは泣いている顔をより感情的に強く感じ、逆に泣いていない顔からは感情をより弱く感じたというのです。
共感性が高い人には、涙は感情を訴える手段として非常に有効ですが、逆に泣いていなければ、それほど必死ではないんだろうと判断されてしまうようです。
女性は共感性の高い人が多いと言いますが、小中学生の頃などを思い出して見ると、泣いている子に対する男子・女子の反応の違いには思い当たるところがあるかもしれません。
またパーソナリティ障害(大多数とは違う反応や行動を取ってしまう精神疾患)の傾向が強い人は、泣いている顔に対して独特の視線パターンを示しました。
たとえば、反社会性パーソナリティ障害(社会の規範を破ったり、他人の権利を侵害することに罪悪感を感じない人)のスコアが高い人は、顔全体を注視する時間が長くなっていました。
そのため、涙のある領域を見る時間は少なくなっていたのです。
「この種の性格は、涙を見ない方法として、顔全体に視線的注意を高めているのではないか」と研究者は語っています。
性格特性が、涙への視線的注意の傾向に差を生むことの影響などは、脳波測定含めたもっと広範な調査を行ってみないと明らかなことは言えません。
しかし、共感性の高い人や、逆に社会性の低い人などで、涙に対する視線の注意が異なるというのは興味深い結果です。
「泣けば許してもらえると思ってるのか!」なんて言う人もいますが、やはり涙は自身の感情を伝えるために重要な役割を持っているようです。