絶縁体の中を流れる「何か」
この世界には電気を通しやすい金属を初めとする電気伝導体と、電気を通しにくいゴムのような絶縁体が存在します。
金属と絶縁体の区分けは、古典的には読んで字のごとく電気が流れるかどうかで決まります。
一方、量子力学の世界においては、金属と絶縁体の違いは「量子振動」と呼ばれる現象が起こるかどうかで分けられていました。
量子振動とは、磁場の強さによって、金属に対する電気の流れやすさが周期的に高くなったり低くなったりする現象です。
約1世紀前に発見されたこの現象は、長い間、金属特有のものとされ、絶縁体では発生しないと考えられていました。
しかし今回、プリンストン大学の研究者たちが強固な絶縁体として知られる二テルル化タングステンの単分子シートの電気低効率を測定したところ、絶縁体でありながら金属のように磁場に反応している(量子振動がある)ことと、電気抵抗が非常に低いことが示されました。
絶縁体では本来、電荷をもった電子が通電するようなことは起こりません。
しかし実験結果は、絶縁体において電子が何らかの形で移動していることを示します。
つまり、既存の物理学では説明できない現象が起きていたのです。
この状況を打開するには、全く新しいアプローチ、あるいは発想の転換が求められます。
長い思考の末、研究者たちが辿り着いた結論は「中性化した電子の塊」でした。