「O16」への感染は深刻なネグレクトを誘発していた
研究者がO16に感染した母親マウスの行動を調べたところ、子どもに対する異様な冷酷さが明らかになりました。
通常の母親ならば赤ちゃんマウスに対して頻繁に母乳を与え、休みなく世話を行いますが、O16に感染した母マウスは基本的な世話を行わないばかりか、授乳すらいい加減でした。
そのため、赤ちゃんマウスの体重は、同時期(生後21日)の正常な赤ちゃんのマウスの半分の重さしかなく、深刻な栄養失調と発育障害に起こしていたのです。
この結果は、大腸菌「O16」が何らかの精神作用を母親マウスに与え、ネグレクトを発症させていたことを示します。
O16とネグレクトの関係を調べるために、研究者たちが最初に疑ったのはホルモン異常でした。
母と子の関係においてホルモンは非常に重要な役割を行っていることが知られており、中でもオキシトシンは「愛のホルモン」と呼ばれるほど母子間の決定的な役割をはたします。
オキシトシンにあふれているマウスは子どもを一生懸命に世話する一方で、オキシトシンの分泌に異常がある場合、今回の研究でみられたのと同様の赤ちゃんに対するネグレクトが発生することが知られていたからです。
しかし調査を行った結果、O16はオキシトシンの生産や分泌に悪影響を与えないことが示されました。
ただ代わりに、必須アミノ酸であるトリプトファンの吸収に影響があることが示されました。
トリプトファンは幸福や安らぎにかかわる脳内物質として知られるセロトニンの生産にとって必須です。
セロトニンの生産に異常がある場合、母親マウスの精神的健康が失われ、うつ常態を経て、ネグレクトにつながった可能性があります。
既存の研究では人間と同様に、マウスでも母親の精神的健康が損なわれると、育児に悪影響が出ることが知られていたのです。