渦巻く波紋とブラックホールの逆反応
排水溝への水の流出が、ブラックホールへ降着する物質として見ることができるならば、水はブラックホール周辺の時空自体として、また量子活動で波打つフィールドとして見立てることができます。
水が渦巻いて排管へ流れ落ちるとき、周辺にできるさざ波は、ブラックホールへ消えていくエネルギーの波について、何かを伝えているのかもしれません。
そこで研究チームは、排水渦の波打つ挙動が、何をおこなっているか分析しました。
その結果、浴槽内を移動する排水による波は、排水口に向かって余分な水を押し込むことで、「降着」のプロセスを大幅に加速させていることがわかりました。
浴槽を使った実験では、実際に水位が大きく低下していくため、ブラックホールの特性が変化していることを視覚的に確認できたのです。
これは非常に有用な情報である可能性があります。
質量の増加によって、ブラックホールの重力強度が変化し、周囲の空間を歪めたり、重力波がブラックホールの挙動にどう影響を与えていくかを、この新しい方法で見ることができるからです。
研究者にとって、特に印象的だったのは、逆反応が十分に大きいために、システム全体の水位が非常に低くなる様子を、目で見ることができた点です。
「これは予想外だった」と研究チームの1人、ノッティンガム大学のサム・パトリック氏は述べています。
この実験は、時空を通過する波の起こす相互作用を実験的に調査する道を開いたといいます。
このタイプの相互作用は、実験室でブラックホールの蒸発を調査するために重要な鍵となるものです。
見慣れた排水溝の水の渦が、実際にブラックホール研究の役に立つというのは驚きです。
観測が難しい物理現象の秘密は、意外と身近な現象の中に潜んでいるのかもしれません。