薬を使った目覚ましい肥満の解消
今回論文で報告された実験は、治験の第III相試験(フェーズ III)ランダム化比較試験であり、これは新薬を承認する際の最終試験に当たるものです。
実験は、アジア、ヨーロッパ、アメリカなどの16カ国129カ所で、太り過ぎまたは肥満(平均体重105kg、BMI38以上)の成人1,961人を対象に実施されました。
この結果は目覚ましいものがあり、セマグルチド2.4mgを投与された人の、4分の3(75%)が体重の10%以上を減量でき、さらに3分の1(35%)の人は20%以上の減量に成功したのです。
「これは本当に画期的なことです。初めて、減量手術でしか不可能だったことが薬によって達成できるようになりました」
研究チームの1人、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のレイチェル・バターハム教授はそのように研究成果について述べています。
教授によると、肥満はウイルス死亡のリスクを著しく高めるもので、COVID-19の重篤疾患リスクにも影響するといいます。また2型糖尿病、肝疾患、および特定の種類の癌など、多くの健康問題に影響しています。
「この薬は、今後のイギリス政府が行う健康政策にも大きく影響するでしょう」と教授は付け加えています。
今回の実験は、2018年秋から68週間をかけて実施されました。
その際、参加者には4週間ごとに栄養士との個別カウンセリングを設け、低カロリーダイエットと運動を遵守してもらい、そのための戦略や動機づけをきちんと提供していました。
それにも関わらず、セマグルチドを服用した人の平均体重は15.3kg、BMIは5.54も減少したのに対して、プラセボ群(実際は薬を投与されていなかった人のグループ)は、平均2.6kgの体重減少、BMIは0.92の減少に留まりました。
これは個人の意志や努力だけでは、なかなか解消できない肥満問題を、セマグルチドが解決しているように見えます。
また、セマグルチドを服用した人は、胸囲、血中脂肪、血糖値、血圧など、心臓病や糖尿病の危険因子となる値の減少も確認され、全体的な生活の質の改善が報告されたといいます。
また満腹感に関連したGLP-1は、インスリンの分泌にも関連していることが知られていて、実はセマグルチドは2型糖尿病の患者に使用することは臨床的に承認されています。
では、すぐに一般でも利用できるようになるのかと期待してしまいますが、糖尿病治療で使用する場合セマグルチドは1mgという低用量で処方されます。
今回の研究では、セマグルチドを2.4mgという高い用量で使用しており、肥満解消の効果は十分に認められましたが、その安全性には問題を残しています。
試験中も、参加者の一部に中等度の悪心や下痢などの副作用が報告されていて、試験を中断したケースが含まれています。
現在は試験結果をもとに認可申請中とのことですが、薬で痩せるという方法は、まだ気軽に試せるものではなさそうです。