花粉を出さない無花粉スギはなぜ増やせないのか?
現在、日本では国民の27%近くがスギ花粉症にかかっていると言われていて、深刻な社会問題になっています。
スギは成長が早く、建材として有用なことから1960年頃から大規模な植林が行われ、これが春先に大量のスギ花粉が飛散する原因となりました。
花粉症が増えた原因は、他にも大気汚染や花粉を吸着しづらいアスファルトの地面が増えたことなどいろいろありますが、この問題を解決する一番の早道はスギが花粉を出さないようにすることです。
実はスギの中には、雄性不稔スギという個体が見つかっています。
これは花粉形成に異常があって、花粉を出せないスギのことをいい、これを林業用に栽培したものが無花粉スギです。
雄性不稔スギは約20系統が見つかっていて、無花粉の性質は遺伝することも明らかになっているため、成長や材質に優れた病気になりにくい優良なスギと交配させた新品種開発も進められています。
なら、なんで無花粉スギはあまり世の中に出回っていないのか、と思ってしまいますがこれにはいろいろ難しい問題があります。
まず、この原因遺伝子がなんであるのかが、これまでは特定されていませんでした。
そのため、無花粉スギの育種では、本当に無花粉なのかどうか判別するために、2~3年かけて苗を育てたあと、薬剤によって人工的に雄花の形成を促進させて、花粉の有無を確認するという非常に気長で煩雑な検定作業が必要でした。
またスギは、林業種苗法という法律により配布区域を越えた種苗の移動が制限されています。
このため、区域外に由来する種苗を自由に植栽することができないので、無花粉スギの品種を開発するためには、植栽する区域内から雄性不稔スギの系統を見つけてこなければならないのです。
これら無花粉スギを増やすための障害を解決するためには、無花粉スギの原因となっている遺伝子変異を探す出すことが必要です。
原因遺伝子が特定されれば、品種改良の際に、苗の遺伝子検査をするだけで無花粉かどうかを判別することが可能になります。
また、自然の中で無花粉の系統を見つけ出す際にも役に立ちます。
今回の研究は、そんな無花粉スギの遺伝子変異を見つけ出すという偉業に取り組んだものなのです。