スギを無花粉にする遺伝子
森林総合研究所、新潟⼤学などの研究グループは、正常なスギと無花粉スギの雄花の遺伝子を比較して、スギ花粉形成に異常をもたらす原因を探しました。
その結果、108個の関係しそうな遺伝子が特定され、さらにこの遺伝子の塩基配列を詳しく調査した結果、そのうち1つに無花粉スギの原因となる変異が発見されたのです。
特定された遺伝子は、「MS1」と呼ばれる遺伝子で、花粉の表面にある脂質に関連しているといいます。
無花粉スギでは、このMS1が働くために重要な塩基配列が失われる「欠失」と呼ばれる変異が発生していました。
脂質を運搬する機能が壊れていたことで、スギは正常な花粉を作ることができず、無花粉になっていたのです。
そこで研究チームは、この遺伝子変異が全国のスギにどのように分布しているかを調査しました。
18カ所の天然林を調べたところ、スギのMS1遺伝子の異常には、それぞれ異なる部分の塩基が失われる2つの系統があるとわかりました。
そして、この2つの系統は遺伝的に極めて近縁で、同じ1つの大元となる系統からそれぞれ変異して無花粉スギになっているとわかったのです。
さらに、この無花粉スギの大元となるスギの系統は全国に分布していました。
今回、無花粉スギに確認された2種の遺伝子変異は、上の図で水色と黄色で表現されています。
この2つの変異につながると考えられる大元のスギの系統は青色で表されていて、これは全国の天然林に一定割合で広く分布していました。
さきほど、スギには林業種苗法という決まりがあって、自由に苗種を移動できないという話がありました。
しかし、無花粉スギにつながる系統のスギが全国の自然林に存在しているという事実は、法律の問題をクリアして、無花粉スギの品種改良が行える可能性を示しています。
無花粉スギの重要な遺伝子変異が特定されたことで、品種改良を行う際も、わざわざ育ててから花を調べて無花粉か確認する検定作業が必要なくなります。
研究チームの1人、森林総合研究所の長谷川 陽一博士は「今後50年間で、無花粉スギの数が増え、最終的に花粉の空中飛散量が減少するため、花粉アレルギーを持つ多くの人が、春先に安心して出かけられるようになるだろう」と語っています。
この研究は、花粉のない清浄な空気の中で生活するための、第一歩となるでしょう。