テイアの残骸はマントルにある
地震学者たちは、地下で発生した地震波の伝播の仕方から地球の内部構造を調査しています。
こうした研究の中で、研究者たちを驚かせた発見がありました。
西アフリカと太平洋のはるか下、マントルの奥深くに急激に地震は減速する広範な領域があったのです。
この領域は「大規模低せん断速度プローブ(LLSVPs)」と名付けられました。
LLSVPsは地球のコアをヘッドホンのように包んでいて、それぞれ厚さは約1000キロメートル、幅は数千キロメートルと大陸サイズの巨大な塊です。
この領域を通るとき、地震が急減速するのは、この部分が周囲と比べて密度が高く、化学的な組成が異なっているためだと考えられます。
なぜそのような領域がマントルの中にあるのでしょうか? 単に古代の地球で原始のマグマが特殊な結晶化をしたものなのでしょうか?
そうでないとしたら、これは地球外から飛来してきた衝突体の組成が異なるマントルやコアの残骸かもしれません。
そう、一部の科学者たちは、これこそがテイアの残骸なのではないかと考えたのです。
この考えは、クレイジーなアイデアだと言われながらも繰り返し提案されてきました。
そして、今回の研究論文の筆頭著者であるアリゾナ州立大学の研究者チェン・ユアン氏が、この難しい問題について、初めて複数の証拠をまとめあげて包括的なモデルとして発表したのです。
ユアン氏は、テイアのサイズ、密度を変化させて、地球衝突後に、どのように地球のコアと混ざり合うかということをシミュレーションしました。
その結果、シミュレーションは一貫してテイアのマントルが地球より1.5%~3.5%密度が高かった場合、LLSVPsを形成して生き残るということを示したのです。
また、シミュレーションはテイアが予想よりずっと大きく、地球とほぼ同サイズだった可能性を示唆していました。
実は同じアリゾナ州立大学に所属する研究者のスティーブン・デッシュも2019年に月の石の研究から、テイアのマントルは、現在の地球より約2%~3.5%密度が高いと報告する論文を発表していました。
この研究の中で、デッシュもテイアは火星サイズではなく、地球とほぼ同サイズだった可能性に言及しています。
2つの研究が示す結果は一致していました。
これは地球の地下深くに潜むLLSVPsが、はるか昔に地球に衝突し月を誕生させた原始惑星テイアの残骸である可能性を示唆しています。
もちろん、LLSVPsはマントルの奥にあるため、それを直接見ることはできないため、実際はどのような構造物なのかはわかりません。
巨大な塊ではなく、チューブのような構造の集合だと考える研究もあります。
そのため、これが確実な答えと言うことはできません。
それでも、マントルの奥深く、地球のコアの周りに、かつて月を生み出したテイアの残骸が沈んでいるというのは、非常にロマンあふれる興味深い話です。