メスになる方法は「遺伝子」と「温度」の2通りあった
ヒトの性染色体は男性が「XY」、女性が「XX」ですが、フトアゴヒゲトカゲは、オスが「ZZ」で、メスが「ZW」となります。
ZWはそのままメスとして孵化しますが、ZZは周囲の温度が高くなるとメスとしての発生に切り換わるのです。
本研究では、両方の胚をいくつか用意し、28度(ZZ胚がそのままオスとして孵化する温度)と、36度(ZZ胚がメスに変わる温度)の環境下に置いて、発生過程にある遺伝子を調べました。
その結果、36度の条件では、ZWで元からメスになる胚と、ZZでメスになる胚とでは、性発生の主要段階で活性化する遺伝子が大きく異なっていたのです。
具体的に言うと、ZZでメスに変化した胚は、オスの発生をコード化した遺伝子が強制的にオフにされ、代わりにメスの発生をコード化する遺伝子がオンになっていました。
研究主任のサラ・ホワイトリー氏は「発生過程を見てみると、両者は違うルートから出発し、最終的には卵巣という共通のゴールに向かって収束していました。
この結果は、メスとして孵化する方法が、遺伝子に駆動されるタイプと温度に駆動されるタイプの2通りあることを意味している」と説明します。
一方で、36度グループの中には、2つのZZ胚が性転換に抵抗し、オスとして孵化したとのこと。
研究チームは、36℃で卵を孵化させた場合でも、ZZ胚の1%はオスとして孵化すると推測しています。
また、なぜ温度の上昇によってメスになる必要があるのかも分かっていません。
現時点で有力な説は「温暖化の中でメスの出生率を高くすることが、種の存続に有利に働くから」というもの。
「個体群の繁殖力を決定するのはメスなので、生存に不利な環境下ではオスよりメスの方が多く必要とされる」とホワイトリー氏は述べています。
チームは今後、温度を感知して性別の決定を導く各遺伝子の役割を明らかにしていく予定です。