実は人間も再生能力を持っている
アホロートル、つまりはウーパールーパーは、自然界ではほぼ絶滅してしまった種です。
しかし、自然界で最強の再生能力を持つことから、再生医療研究では非常に人気のある生き物です。
サンショウウオのほとんどはある程度再生能力を持っていますが、なんとアホロートルは手足や皮膚、尾だけでなく肺や心臓、卵巣、脊髄、さらには脳まで、ほとんどの体の部位を再生させることができるのです。
実は哺乳類も胚の状態や幼生では再生能力を持っていて、人間の乳児は心臓組織を再生したり、指先を失っても再生することができます。
つまり、成体の哺乳類でも、再生に必要な遺伝子コードは保持している可能性が高いのです。
そのため、病気や怪我で失われた組織や器官を、傷跡を残さずに再生させるような医薬療法は開発できる可能性があるのです。
では傷跡を残さないという状態は、どうすれば実現可能なのでしょうか?
今回、研究チームが着目したのは、免疫細胞として有名なマクロファージです。
ゴドウィン博士は免疫学者でもあり、傷が発生した際、真っ先に反応する免疫系に、今回の問題を解明する鍵が潜んでいると睨んだのです。
また、過去の研究からもマクロファージは、再生において不可欠な存在であることが報告されています。
アホロートルでもマクロファージが枯渇すると、哺乳類同様傷痕が形成されて、再生が行われなくなるというのです。
そして、研究チームが調査した結果、バクテリアやウイルスなど病原体にさらされたときのマクロファージのシグナル伝達は、アホロートルとマウスでほとんど一緒でしたが、怪我をした時のシグナル伝達は異なっていることがわかりました。
マウスの場合、マクロファージは傷痕形成を促進するシグナルだったのに対して、アホロートルのマクロファージは新しい組織の成長を促進させるシグナル伝達を行っていたのです。
具体的には、マクロファージが組織の感染や損傷などの脅威を認識した際、炎症反応を引き起こす「Toll(トル)様受容体:TLR」というタンパク質群のシグナル伝達反応が「予期せぬほど多様だった」とのこと。
これがアホロートルの再生能力を支配する重要なメカニズムにつながっていると考えられるのです。
再生の準備段階の一部が解明されつつあります。
ゴドウィン博士は、「これが人間の再生のスイッチを入れるきっかけになるだろう」と述べています。
「たとえば、創傷部位にハイドロゲルを局所的に流し込んで、ヒトのマクロファージの行動をアホロートルのマクロファージの行動と似たものに変える調整剤を作ることができたとすればどうなるだろうか、ということを考えています」
これがすぐに、人間の手足を再生させるような技術につながるというのは現実的ではないかもしれません。
しかし、心臓や肺、肝臓、腎臓など臓器の瘢痕化が原因となる病気においては、これを改善させる新しい治療法につながる可能性があります。
義手や義足のように、失った体の部位を補う技術もどんどん進歩していますが、失った体を再生させることができるようになるなら、それに越したことはないでしょう。
近い将来には、病気や怪我による体の損傷が、恒久的に人生の質を下げてしまうような問題は解決されるかもしれません。