毒を吸い上げる「スポンジ」がある可能性
仮説の一つは、ピトフーイやヤドクガエルが「バトラコトキシン耐性のナトリウムチャネルを進化させている」ことです。
彼らのナトリウムチャネルの機能については研究されていないため、その可能性も十分に考えられます。
そこで研究チームは、ピトフーイとモウドクフキヤガエルのナトリウムチャネルを単離し、毒素への反応を調べました。
すると、どちらのナトリウムチャネルも、バトラコトキシンに対して非常に敏感である(毒に侵されやすい)ことがわかったのです。
モウドクフキヤガエルの方は、野生の個体から得られるバトラコトキシンの10倍以上も低い濃度に反応していました。
これと別に、以前の研究で、一部のヤドクガエルに見つかったバトラコトキシン結合部近くの突然変異をラットに導入することで、ナトリウムチャネルに毒素耐性を持たせることに成功しています。
そこで、同じ突然変異をピトフーイとモウドクフキヤガエルの単離ナトリウムチャネルにも導入したところ、毒素耐性はまったく得られませんでした。
それどころか、この変異は、バトラコトキシンが存在しない場合でも、双方のナトリウムチャネルの機能を低下させたのです。
このことから、ナトリウムチャネルにはバトラコトキシン耐性がなく、別の自己防衛機構が働いていると予想できます。
研究チームが、最も可能性の高いものとして挙げるのが、毒素を吸い上げる「スポンジタンパク質」です。
実際に、バトラコトキシンは、単離したナトリウムチャネルになら結合するものの、生きている個体に注入しても何の効果もありません。
つまり、生きた個体の体内で生成されたスポンジタンパク質が毒素を吸い上げ、ナトリウムチャネルへの結合を防いでいると考えられるのです。
まだ、そのスポンジタンパク質は特定されていません。
しかし、モウドクフキヤガエルは「サキシフィリン(saxiphilin)」というタンパク質を産生しており、麻痺性毒素の「サキシトキシン(Saxitoxin)」を吸収することが知られています。
今回の実験でも、単離したナトリウムチャネルでは、サキシトキシンに敏感に反応しましたが、サキシフィリンがある状態では毒反応がまったく起こりませんでした。
以上のことから、有毒生物にはスポンジタンパク質が存在し、ナトリウムチャネルを標的とする毒素を吸い上げ、自分の毒で中毒になるのを防いでいると予想できます。
研究主任のダニエル・L・マイナー・ジュニア氏は「この戦略は、中毒を回避するだけでなく、皮膚上で毒素を安全に輸送したり、濃縮したりする経路にもプラスの効果があるでしょう。
こうしたメカニズムを理解することで、さまざまな毒物に対する解毒剤の開発につながるかもしれません」と述べています。
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