ロングイェールビーンは、ノルウェー領スヴァールバル諸島にある街。この街には奇妙なルールが存在します。この街で死んではいけないのです。一体どういうことなのでしょうか。
北極圏に位置するスヴァールバル諸島は、極寒。寒すぎて住みにくく、ノルウェー政府が「ビザなし」での観光も、商売さえも許されている特殊な土地。日本人が急に寿司屋を開店してもOKです。
なぜこの地で死ねないかというのは、その「寒さ」がカギを握っています。
このルールのきっかけは、1918-19年にかけて世界中で猛威をふるった恐ろしいパンデミックでした。-30℃が当たり前の世界。そこでは死体が腐り、分解されることがないため、スペインかぜの殺人ウイルスが死体の中で生き続けていたのです。
20世紀に全世界の人口の5%を犠牲にしたこのパンデミックは、このノルウェーの小さな街にも忍び寄りました。そして、この死体の中で生き続けるウイルスが、さらなるパンデミックの引き金になることを恐れた政府が、この地で死に、埋葬されることを違法としたのです。
その法律は現在でも有効であり、ここで「末期」の診断を受けた患者は、首都オスロのような別の場所で余生を過ごし、最期の時を迎えることとなります。どんな理由であっても、この街の地中で永久に眠ることは許されないのです。
「やりすぎでしょ」と思う人もいるかもしれませんが、2016年にロシアで感染が拡大した炭疽菌の例を思い出してください。これは、熱波の影響でトナカイの凍結死骸が溶けたことを発端にしています。地球温暖化が進行を続ける現代においては賢明な判断といえるのかもしれません。
とはいえ、この街で死ぬための方法は一つだけ残されています。それは「火葬」です。丘の上に小さな火葬場があります。どうしてもこの極寒の地で永遠の眠りにつきたければ、その身を炎で焼き尽くした後に、骨だけになって眠りましょう。
via: mysticalraven / translated & text by なかしー