淡水貝の除去により、水深が増し、流速が遅くなった
自然界には、森や川などの環境を大きく変えることで、その地の動植物や生態系に強い影響を与える生物(エコシステムエンジニア)がいます。
こうした生物の特定および保全は、健全な生態系を維持するためにも重要です。
これまでの研究では、造網性昆虫が砂や小石を固定することで、川底の安定性が高められることが示されていました。
一方で、その多くは人工的な実験河川や、1メートル四方の小さなスケールで実証されただけであって、実際の河川スケールではどうなるか分かっていませんでした。
そこで研究チームは、本州と北海道に生息し、川底に群生するカワシンジュガイに注目して、野外実験を行いました。
実験では、北海道東部・厚岸(あっけし)町を流れる別寒辺牛川(べかんべうしがわ)を対象に、勾配がゆるく、川底を砂が占める中流域の約2キロを調査範囲としています。
このエリアは、カワシンジュガイが1平方メートルあたり約175個体と、非常に高密度で生息しています。
チームは、エリアの1区間に群生するカワシンジュガイをすべて除去し、物理環境(水深や流速)の変化を除去しなかった区間と比較しました。
その状態で2ヶ月放置した結果、除去区間でのみ平均水深が30センチ増し、さらに平均流速が6.6cm/sも遅くなっていたのです。
川幅の変化は見られなかったものの、除去区間では水深の増加に伴って、断面積が大きくなっていました。
この結果から、2つの可能性が指摘されます。
1つは、川底に固定されたカワシンジュガイが水流に対する抵抗力を高めて、砂の動きを抑制している可能性。
もう1つは、カワシンジュガイの貝殻が川底付近の流速を遅くすることで、砂が浸食されにくくなっている可能性です。
これらは、カワシンジュガイが川底の安定性を高めて、川のかたちや流速に大きな影響を与えていることを示します。
本研究は、淡水貝が川の生態系の形成にかかわっていることを示した初の成果です。
研究チームは、この結果を受け、「健全な生態系の維持のために、カワシンジュガイを適切な空間スケールで保全する必要性がある」と述べています。