空砲でも「死亡事故」が発生する原因
空砲は、必ずしも「弾が入っていない空の状態」を意味しません。
空砲にはおもに2つのパターンがあります。
1つは、実弾は装填されていないが、火薬が入っているもの。
もう1つは、実弾の代わりに紙や木片、プラスチック、フェルトなどを弾頭に使っているものです。
これにより、小道具の銃をよりリアルに見せることができます。
一方で、どちらの場合も取り扱いには要注意で、火薬が入っている空砲を撃つと、銃口から燃焼ガスが射出されます。
これが至近距離で体に当たると、大ケガでは済みません。
実際、1984年に、俳優のジョン=エリック・ヘクサム(Jon-Erik Hexums)が、火薬の入った空砲で死亡する事故が起きています。
彼は撮影中に、冗談で「小道具の銃を使ってロシアンルーレットをやろう」と言い出し、自らのこめかみに銃口を押し当て、引き金を引きました。
結果は悪い冗談では済まず、彼は26歳の若さで命を落としています。
また、紙や木片を弾頭に使ったものも、至近距離で撃つと命を奪う凶器となります。
長距離の場合は、鉛を使った実弾と違ってはるかに軽いので、すぐに勢いを失って落下します。
ところが、至近距離で撃つと、人体に風穴をあけるには十分な威力がありますし、長距離で当たったとしても、打撲は免れられないでしょう。
ですから、空砲と言えど、絶対に人に向けてはいけません。
さらに悪いことに、空砲には、発射音をより効果的にするため、実弾より多くの火薬が含まれていることがあります。
ブルース・ウィリスは、映画『ダイ・ハード』(1988)の撮影中、特別に大きな音の出る空砲を顔の間近で撃ってしまい、聴力の3分の2を失ったという。
そして、今回のように、「空砲だと思っていたら実弾が入っていた」という事故も過去に例があります。
最も古い記録では1915年、映画『The Captive』(原題)の撮影中に、エキストラの一人が実弾の入ったライフルを誤射し、もう一人のエキストラを即死させています。
また、有名なものとしては1993年、映画『クロウ/飛翔伝説』の撮影中、ブルース・リーの実子であるブランドン・リーが、同じ理由で誤射され、死亡しています。
映画の撮影現場では今も、小道具の銃が原因となったキャストの大ケガやスタントマンの死亡事故が跡を絶ちません。
IATSE(国際映画劇場労働組合)の組員であるトーマス・ジュニア氏は、22日、撮影で銃をあつかうことの危険性を自身のTwitter上で指摘しました。
「1日12〜14時間以上働き、過労で疲労困憊のスタッフを急かして、できるだけ早く銃を準備させ、まともにトレーニングも受けていない出演者に手渡します。
(中略)小道具を扱うスタッフは、誰もが信頼できるプロですが、14時間以上も働きづめで疲れ果てた状態では、人為的なミスを犯してしまうのです」
And guess what happens when they do scenes with guns? Every take they have to reset the guns. Rushing the overworked and exhausted one or two @IATSE armorers working 12-14+ hour days to reload the guns as fast as possible, where they hand them off to.. actors with no training
— thomas Jr. 🛠 IATSE STRIKE! (@t_NYC) October 22, 2021
Has never been a single moment that I didn’t trust my fellow @IATSE members in the Special FX department with my life. They would set up building-size explosions right next to us. I trust them with my life. And yet ANYONE I trust can make a mistake while working 12-14+ hours pic.twitter.com/TOWLo3L2LR
— thomas Jr. 🛠 IATSE STRIKE! (@t_NYC) October 22, 2021
今回の誤射は、リハーサル中に起きた事故であり、現在も関係者に当時の状況を聞いて、詳細を調査中とのこと。
こうしたことが起きないよう、映画業界も労働環境を再考する必要があるでしょう。