落雷が刻む骨の損傷
実際、自然の雷を死体に落とすことは難しいため、研究チームは、実験室で人工的な雷を発生させ、それを研究用に寄贈された自然死による死体から取り出した、人間の骨にぶつけてみました。
こうして実際提供された死体を使って実験していくことで、法医学の知識は蓄積されていきます。
実験室では、最大1万アンペアの高インパルス電流を発生させる装置を使用して、雷が骨格を通過する効果を模倣しました。
この結果わかったのは、短時間の雷電流によって引き起こされる、独特の骨の損傷パターンでした。
研究チームの1人、ウィッツ大学のパトリック・ランドルフ=キニー(Patrick Randolph-Quinney)博士は結果について次のように説明します。
「高倍率の顕微鏡を使って、雷電流の通過による骨内部に微小な亀裂パターンが刻まれることを確認しました。
これは、骨細胞の中心から放射状に広がるひび割れや、細胞の集まりの間を不規則に飛び跳ねるひび割れとして見ることができます。
損傷の全体的なパターンは、家事で焼かれたときなどの高エネルギーの外傷と比べ、非常に異なっているように見えます」
実はこうした骨の損傷パターンは、落雷にあった野生のキリンからも発見されていました。
ただ、キリンの場合はパターンは似ていますが、骨の微細構造が人間とは異なっているため、全体的に不規則な微小骨折がたくさん発生していました。
このことは、骨密度によって損傷の仕方が異なってくることを示しています。
人間の場合、40歳を超えると年齢とともに骨がよりもろくなっていくため、キリンと同じ様に落雷に遭った場合、微小骨折の量も多くなる可能性があるのです。
雷の専門家は、こうした現象を圧外傷と呼んでいて、電気エネルギーが骨の内部を通過するとき文字通り後発の衝撃波を生成します。
これにより骨細胞を吹き飛ばしているのです。
また骨の有機部分であるコラーゲンは、繊維またはフィブリルとして配置されていて、これらのフィブリルは、電流が流れると再配列し、骨の鉱化および結晶化した成分に応力が蓄積し、変形やひび割れを引き起こすのだと、研究者は説明しています。
こうした痕跡はマイクロCT撮影などで発見することができ、ここからこのパターンが見つからない謎の死体については、殺人事件やその他の可能性を模索することができるのです。
犯罪や落雷の多い南アフリカ共和国ならではの研究報告ですが、これは日本の山奥で白骨死体が見つかった場合、それが落雷にあった不運な登山者だったのか、なんらかの事件に巻き込まれたのかなど、法医学的に判断する際にも役立つことになるでしょう。